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act.58…旅立ちの春



蓬莱と離れて2年半が経過したが今もあの笑顔、俺を呼ぶ声、楽しかった日々を忘れられなかった。

ずっと、テレビや雑誌で蓬莱の活躍を見守っていた。

その励む姿を見る度にラケットを手に取り、コートへ向かった。


「負けねぇよ、」


そんな俺を友人二人はもちろん、両親も見ていた。


話は変わるが、氷帝学園中等部時代のテニス仲間が遊びに来る度にこてんぱんにして、自分の腕磨きの踏み台にしてやった。


「跡部、知らん間に強なって。」

「呼吸が乱れてるぜ、忍足。」

「侑士、最近は医学書以上に重いものは持ってねぇだろ?」

「そんなことないで?こないだジローが飛びついてきたから抱きとめたもん、」

「落ちそうなったC。」


天才と謳われた忍足を負かすのに大した時間は要らない。

高等部では共に力を入れてテニスをしてきた仁王相手でも苦労はしない。


「明日やろ?噂のお姫さんを追って行くんは、」

「おめぇ良い青春してんだなー」

「当たり前だろうが。でも、それだけじゃねぇよ。頂点に立ったときが楽しみだ。」


高等部から大学へ進まず、プロの道を歩むことを両親は反対した。

それが米倉蓬莱に関わっていると感づいたんだろう。

しかし生憎、丸く収まるような奴じゃないんでね。


「頑張れよ、跡部!」

「あぁ。例の彼女と進展あったら連絡しろよ宍戸?」

「あーはいはい。」

「なになに!?宍戸に彼女ぉ!?」

「落ちつきんしゃいよ向日。」

「つうか仁王!岳人に触りなや!パートナー気取りよって!」

「お、落ち着いてください忍足さん。」

「はぁー…くだらない。俺は帰りますよ?」


後輩の日吉は会話を聞いて呆れていたが奴も優しい一面がある。

帰ると言いながらも見守っていた。


「明日、見送りはいらないからな。」

「跡部、おめぇ、見送られんの好きじゃねぇからだろ?」

「うるせぇよジロー」


そんなこともあり、旅立つ前日にみんなが集まってくれた。

目指すものを追っての旅立ち。


「そういえば跡部、親はなんも言わないのかよ?」

「まぁ、跡部財閥は跡部が跡継がんと途絶えるしのう。」


宍戸の問いに対して、仁王の思うことは正しかった。

俺はただ言った。


「世界の頂点を目指してからでも遅くはねぇだろ?」


俺の提出した答えにみんな挙(こぞ)って“らしい”と呟いた。

それに対し、岳人がハッとして口を開いた。


「蓬莱が早くに捕まればいいけどな、」

「なんか言いやがったか?あーん?」

「い、いや?」


俺たちの話を両親が聞いているとは知らなかった。

2年半に渡り俺を見てきただけあり、両親はもうなにも言うつもりはなかったのかもしれない。


「イルエ、」

「なんでしょう?」

「景吾のこと、覚悟をしておかねばならんかもしれない。」

「……はい。」

「例え、同じ結末に至るとしても。」

「あなたが許すなら、私も覚悟しましょう。あの子にしたら辛くとも、それ以上の幸せを得るかもしれないものね?」


俺は蓬莱に関して知らなすぎたのか?

いや、親父らの年代の大人がみな黙秘を貫き通したからだ。

だが、俺はこの道を選んだこと、少しも後悔はしていない。

――今このときは。





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