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act.57…支えるよ


これは俺が有言実行してから鳳佳梨に聞いた――蓬莱が両親から家を追い出されたときの話だ。

荷物を抱えて、ふらふらと頼りない足取りで一人歩いていたらしい。

それをたまたま見たという。


「蓬莱先輩!」

『あ…佳梨、』

「そんな荷物持ってどうしたんですか?」

『アメリカに帰るの。』

「え?俺また聞いてないですよ!!」

『急にね、』


彼女は俺の家から追い出された、とは決して言わなかった。

佳梨の奴がすべてを知ったのは後のことだったとか。

さすがに蓬莱の様子を見て、不審に思ったようだ。


「…跡部くんは?」

『景吾は……いいの。』

「そうですか。」


アイツはなにか事情があることを察したがなにも聞かなかった。

それは佳梨の優しさかはわからない。

ついでに気になることがもう一つあった。


「それどうしたんですか?」

『え?』

「首、赤くなってます。」

『!』


首筋に見えた小さな跡。

それがキスマークだとすぐにわかったらしい。

下手(ベタ)な質問だと自分を笑ったらしいが蓬莱にしたらなにも問題はなかった。

彼女の反応からして、嫌々付けられたわけではないと理解したんだとか。


「(俺の負けだな、)」


蓬莱はなにも言わなかったがその相手が俺だと気づいたのだろう。

荷物を持った蓬莱の様子だと俺となにかあったのかもしれない、そう感じても負けを認めざるを得なかったと言う。

蓬莱の気持ち、そして身体も跡部景吾に奪われた、と。


「蓬莱先輩、俺もアメリカに連れていってください。」

『な、なに言ってるの!?』

「ダメなんて答えは聞きませんよ。今、決めたんで。」

『だって、』

「安心してください。アメリカについてって先輩を落とそうなんてしませんよ。ライバル(相手)が遠くにいるのにターゲットを狙うなんてフェアじゃないんで。」


蓬莱は戸惑っただろう。

普通なら佳梨からの申し出を断るのは簡単だろうが今は普通ではなかった。


「ただ、心配なんです。」

『……でも、愛犬(亜姫)は?』

「少しだけ我慢してもらいます。」

『アメリカに行くのは簡単なことじゃないよ?パスポートだって用意しなくちゃいけないし、』

「蓬莱先輩。俺、スポーツトレーナーの勉強でイタリアにいたんですよ?」

『座席がないかもしれないでしょ?』

「航空会社に聞いて席があればいいんでよね?フライト何時です?」

『…11時59分、』


佳梨はその場で携帯を開き、航空会社に連絡を入れた。

調べてもらった結果、運良くも席があったと蓬莱に告げた。


『……はぁ、負けた。』

「同行、許してくれます?」

『これ、もらったチケットなの。だから佳梨の飛行機代、半分私が持つよ、』


そのチケットは親父が用意したものだった。

蓬莱は金に困っているわけではないのに親父の出来る最高の送り出しだったのかもしれない。


「じゃあ、出世払いということで。」

『出世?』

「師範に腕がいいって褒められたし、どこか痛めたときにリハビリとか俺がします!」

『それは頼りになるね。』


親父、俺が蓬莱を好きになって追いかけていったのは間違ってたか?

母さん、俺の気持ちを根絶すべきだったと深く後悔してるか?


「ちゃちゃっと支度するで待っててもらえますか?あ、きっと渡米すること聞いたら仁王くん怒るだろうな…入り浸る家がまたなくなるんだから。」

『佳梨?』

「はい…?」

『ありがとう。』

「いいえ!」


蓬莱先輩が好きだから手に入らなくとも、彼女に自分のすべてを尽くしたかった。

そう言っていた佳梨は格好良かった。





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