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act.51…待ちきれない


学園祭の振替休日。

蓬莱とのんびり過ごそうと思い、紅茶でもいれてやろうとした。

しかし、彼女は部屋にはいなかった。

前と同じようなタイミング。


「……まさかな、」


あの時は鳳佳梨にしてやられただけで、今回も同じとは言い切れない。

しかし、嫌な予感は的中するものだ。


その日の夕方、蓬莱の帰宅を待った俺は窓の方を気にしながら本を手に持っていた。

ただ手にしていただけで実際は読書という形には至らなかった。

集中力に欠けるのだ。


「ユエ!」

「お呼びですか?」

「コーヒーだ。」

「あの、今朝から5杯目になりますよ?そろそろ止めないと胃を痛められます。」

「うるせえー」


胸騒ぎのせいで蓬莱が目の届くところにいないだけで不安になる。

落ち着かないためにコーヒーを胃に流し込んだ。


「仕方ありませんね…ミルクを入れてもいいならご用意いたします。」

「あぁ、」


ミルクを入れてもらうことでコーヒーを飲むことを許してもらえた。

出してもらったコーヒーをスプーンを無駄にかき回し、ふと手を止めて窓の外を見た。

辺りが暗くなってきたため、いい加減心配になってきた、その時だ。


『ただいまー』


玄関から疲れきった声が聞こえ、いち早く彼女を出迎えるべく、部屋を飛び出した。


「遅かったな?」

『うん、』

「……なんかあったのか?」


身体だけでなく精神的にも疲れているのか目が虚ろだった。

俺はただ彼女を心配するしか出来なかった。


『今日、佳梨に呼ばれて出かけてきたの。始めは楽しかった。』

「楽しかったならよかったんじゃねーか。」


予想は的中していたらしい。

やはりアイツは要注意だな、と思った。

しかし、蓬莱が楽しかったと言うんだから上辺だけでも一緒に喜んだ。


『別れ際、言われたの。私…初めてでどうしたらいいかわからなくて、』

「なんの話だよ?」


混乱しているらしく、蓬莱の目が泳いでいた。

俺からの質問後、深呼吸を数回してから口を開いた。


『好き、なんだって?』

「…は?」

『私のこと好きならしいの。』


彼女は俺の目さえ見ることができずにいる。

初めて告白を受けたことに驚くべきなのか、佳梨の気持ちを知らずにいたその鈍感さに驚けばいいのかわからなかった。


『付き合って、って…どうしたらいいのかな?』

「……普通、相手が好きなら付き合うだろ。」

『景吾なら付き合う?』

「告白してきた相手が好きならな?」


目の前で悩む蓬莱を俺はただ見ているだけだった。

俺と蓬莱はキスをした仲まで進展したのに、佳梨の告白を断ることになにを躊躇っているのだろう?

俺は彼女に疑問を感じていた。


「蓬莱にとって、鳳佳梨がどんな存在か考えれば答えは簡単なんじゃねぇか?」

『そ、だけど…』

「……躊躇う理由でも?」

『私…』


彼女の言葉の続きを待てばよかったのに、せっかちだった俺は待てなかった。

そのせいで俺らの関係がぎこちなくなってしまったのだ。


「蓬莱、俺はおまえが好きだ。それを知らなくはないだろ?」


心の底から後悔した。

自分勝手だったと思う。


「蓬莱は俺にキスさせてくれた。だから、俺を好きになってくれたんじゃないかってちょっと期待してた。」

『………』

「こんなこと言いたくはねぇけど、俺と佳梨を天秤にかけてんじゃねぇよな?」

『そんなこと…!』


俺の告白を聞いた蓬莱はあまり良い顔をしていなかった。

今思うと恐らく、タイミングが悪かっただけなのだろう。

今さっき、後輩から告白されて困惑しているというのに更に告白されたのだ。

しかし、その時の俺はそんなことを考える余裕がなかった。


「そりゃあ、俺は5つも離れたガキ。相手はしっかりした昔から知る後輩。天秤にかけるまでもねぇよな?」

『……わかってない。』

「あん?」

『わかってないよ景吾!』


走り出した彼女を追いかけることはできなかった。

なにかとんでもないこと言った気がしたからだ。


『(あなたには信じて待っていて欲しかった。いや、待っててくれるって信じてたのに…)』


これにより、二人の間に溝ができてしまった。

謝るタイミングを完全に失い、俺は悲しいことに蓬莱と丸一日顔を合わせられずにいた。

どうすればいいかわからず、その一連のことを電話で仁王に相談すれば真面目に叱られてしまった。


「待つことぐらい出来るようになりんしゃいよ。」

「悪い、」

「いや、俺に謝られてものう…蝶本人に言わんと。」


バカだな、俺。

こんなにも後悔してるなら早く謝りにいけばいいのに。


「待っててやりんしゃいよ。恋愛初心者にすれば1日に2回の告白はきっと気疲れの元なんじゃよ。」


仁王に考え方を改めるように言われた俺はため息をついてしまった。

初めは待つことなんて苦にならなかったのに待てなくなってるというのはどうなってるんだろうか。


「おまえと蝶だからすぐに仲直りできる。心配しなさんな。」

「ガキじゃねぇんだから“仲直り”ってのはないんじゃねぇ?」

「なんでもいいん。問題を解決出来るように祈っとうよ。」


相談に乗ってくれた仁王のためにも一刻も早く仲直りしなければ、と思った。


「すぐ謝りんしゃいよ?」

「この電話が終わったら謝りに行く。」

「優しく抱きしめて謝るんよ?」

「バカか?」


仁王は謝るコツまで教えてくれたがいらねぇ知識だな。

とにかく有言実行だ、と気合いを入れて仁王との電話を終えるや立ち上がった。





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