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act.50…ライバルの嫉妬


翌日、学園祭二日目。

俺はなにも知らず、普段通りに学校で過ごしていた。


「跡部跡部!!」

「んだよ?」


岳人が慌ただしく声を上げながら走ってきた。

学園祭の運営委員会の仕事をしていた俺は忙しさからか、かなり面倒臭く思えて、適当に返事をした。

しかし、腕を引かれて見るように促され、俺は仕方なく指を指した方を見た。


「蓬莱と鳳佳梨…?」

「…やっぱりか、」

「なにがやっぱりなんだよ?」


なにか事情を知っているであろう岳人に問い尋ねるとこう答えた。

仁王が鳳佳梨といるときに学祭の話題になり、迂闊にも日程などの情報を漏らした、ということだ。


「どうかしたんか?」


俺らの様子を少し離れたところから見ていたのか仁王が近付いてきた。

その状況を岳人が躊躇しつつ説明した。

もしかすると仁王が責任を感じて自分を責めるんじゃないか、と思ったのかもしれない。


「それがやっぱ来てんだよ。蝶と鳳の従兄弟。」

「……そうなんか。」


ため息と同時に肩を落とした仁王は一言、悪いと詫びを入れる。

だが、それは仁王のせいではない。

俺が蓬莱はずっと隣にいる、と勝手に安心しきっていたせいだ。


「仕方ねぇよ。仁王のせいじゃねねぇし、んなに気にすんな。」

「じゃけ、またこの前みたいにキスでもされかけたら…」


そう言った仁王の言葉を聞いて俺は思った。

昨日、蓬莱と俺はキスをしたばかりだからそれはないだろう――と。

あれでお互いの気持ちを確認出来た気がしたし、そんなに問題視する必要はない。

それに、もう一つ安心できる要素があるとしたら…


「宍戸さん、リンゴ飴がありますよ。」

「お、うまそうだな。」

「仕方ないから買ってあげるよ。」

『佳梨って年下に甘い。』


なぜかわからないが宍戸と中等部から遊びに来た鳳が二人といることだ。


「それにしても佳梨にぃがまさか米倉蓬莱さんと知り合いだなんて知らなかったよ、」

「学生時代の先輩なんだ、」


それにムードの欠片もない。

しかし、仁王は自分の責任だと言い、二人を見張るためいなくなった。


「んなに神経質にならなくていいだろ。俺は平気だ。」

「……なんか良いことでもあったのか?」


俺の発言で岳人はなにか察したらしく、目をまん丸にして見てくる。

確かに今までなら仁王のように神経質だったかもしれない。

蓬莱が許してしたキスによって俺たちはなにか見えないもので繋がっているように思えた。


「蓬莱と、」

「蝶と?」

「キスした。」

「……どこに?」


お子様なくせに質問してくる内容が的確っていうのは少し怖かった。

俺はどうせ後でわかることなら、と思い、恥ずかしさにめげず口にした。


「キスなんだから口に決まってんだろうがよ。」

「……マジ?」

「疑うのか?」

「だってよー」

「んなに疑うなら本人に聞けよ。俺は嘘は言ってねー」


そう冗談を含んで言った。

しかし、いつも本気100%な岳人にすれば冗談ではすまなかった。


「じゃ、本人に聞いてくる〜」


スキップしながら蓬莱たちのもとへ行く岳人を慌てて追いかけた。

背が小さい分、歩幅が短いために俺よりも足が遅いはず。

しかし、こういうときの岳人にはなぜか追いつけない。


「(アイツ日頃本気出せてねぇな、)」


そういう力を日頃のテニスで出せればもう少し上を目指せるのに。


距離が少しずつ離れていくのに気持ち諦めながらも岳人を追う足はなぜか止まらなかった。

それは岳人の質問に対しての蓬莱の反応を見たかったからかもしれない。


「蝶ー!」


結局、岳人を捕まえることなく、奴は蓬莱たちの元にあっと言う間にたどり着いていた。

岳人の姿を見た宍戸と鳳はその元気そうにしている様子を見て少し嬉しそうだった。


「岳人じゃん、」

「向日さん、お元気そうで。」

「おう!」


適当に挨拶をすると自分の疑問を確かめるべく、すぐに岳人は蓬莱を見て言った。


「なぁ、蝶さ?昨日、跡部とキスしたって本当?」

「!」


岳人の言葉を聞いた鳳佳梨は目を見開いて彼女を見た。

それは奴が蓬莱に思いを寄せていたからだ。

真実を知るためにただ佳梨は黙っていた。

一方の宍戸と鳳は跡部だからな、の一言で納得していた。


彼女からの答えを待ちきれなくなったのか岳人は質問を変えた。

いや、答えを急かした。


「もしかしてそのまま食われちゃった?」

『違…!』


さすがにその質問には即答だった。

岳人にそんな質問をされると思っていなかったらしく、みんなが目を見開いた。


『……したよ。キス、』

「なんでキスしたんだよ?」

『それは……』


顔を赤らめ、恥ずかしさを隠すように口元を手で隠して横を向いた。


「(へー?跡部さん、蓬莱さん狙ってるんですか。)」

「(この反応じゃ落ちたも同然だな、)」

「(宍戸さんがわかるんだから蓬莱さんはわかりやすいんだ。)」


鳳と宍戸がこそこそと話し合い、顔を見合わせて笑っていた。

次に岳人が投げ掛けた質問ゆえに俺は宍戸たちを気にしてはいられなかった。


「跡部、キスうまかったー?」

『(岳人の意地悪。そんなこと言えるわけないでしょ。)』


どうやら、蓬莱と俺は信頼関係をきちんと培うことが出来ていたらしい。

彼女の反応からすると嫌だったわけではないとわかる。


「もういいじゃない向日くん。」

「だぁーって!からかうと面白ぇんだもん!」


うひゃひゃー。と変に笑いながら岳人はその場から退散した。

鳳佳梨は冷静を装ってはいたが俺は一瞬、悔しさゆえに顔を歪めたのを見逃さなかった。


「ねぇ、蓬莱先輩。」

『…なに?』

「明日、時間ください。」


話があります。

そう付け加えると真剣な表情は一変し、いつもと変わらない微笑みを浮かべて蓬莱の手を握った。


「次どこ行きますー?」

「ちょ、佳梨にぃ!待ってよ!」


いきなり歩き始めた佳梨について走る鳳たちはその場から姿を消した。

俺は蓬莱たちがいた場所まで来てふと空を見上げた。

すると近くに身を潜めていた仁王が現れた。


「へー?蝶とキスね、」


恐らく嫌味100%だ。

俺はなにも言えずに黙っていた。


「向日には言うたんに、俺にはなんで言うてくれんかったんじゃ?水くさいのう、」


どうやら自分だけ知らなかったことが悔しかっただけらしい。

仁王にも可愛いところもあるもんだ、と笑っていると彼に冷たい笑顔を向けられ、微動だにできなかった。


「一から話しんしゃいよ、跡部?」


肩を捕まれ、逃げることもできず。

俺は一から仁王に過程を説明する羽目になった。


「それで終わりなん?」

「あぁ、」

「ふーん?ところで――」


仁王の言葉に俺は気づかされた。


「いつ告白したんじゃ?」


なにより大切なことを忘れていたのだ。

まだ告白はしていない、と言えば仁王にバカにされてしまった。


「さすが恋愛未経験者じゃ。」


情けないことに俺は言い返す言葉を見つけられなかった。





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