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act.49…ファーストキス


よく知る実莉という奴は俺の幼なじみに当たる。

お互い両親が大きな企業を営んでいることもあり、昔からよく連んでいた。

コイツといて楽なのは女らしくないからだと思ってる。


「ありがとよ、実莉。」

「どーいたしまして。」


気を利かせて実莉は更衣室のドアに貸し切りの札をかけて出ていった。

二人きりになり、俺は改めて蓬莱に視線を向け、その姿を脳裏に焼き付けてから口を開いた。


「綺麗じゃねーか。」

『あ、りがと…』

「マジで娶(めと)りたくなる。」

『冗談やめてよ、』


恥ずかしそうにそっぽ向いた蓬莱を抱き寄せ、首筋にキスを落とした。

体を強ばらせたままでいる彼女の髪を撫で、静かに言った。


「なんもしねぇよ、」


そう聞いて安心したのか、それまでぎゅっと固く閉じていた目を開いて俺を見た。

緊張も和らいだらしく、滅多に甘えてこない猫のように俺の胸にすり寄ってきた。


そんな仕草に自分を抑えられず、気持ちをあえて表すのは自分の弱さと焦りからだろう。


「して欲しいならするけどな、」

『!』

「はは、冗談だ。」


蓬莱の反応を見て、すぐに後悔して訂正した。

俺としては彼女に俺が男であることを意識して欲しいから言ったまでのこと。

臆病なくせに求めてるなんて矛盾してるよな。


「けど、これは冗談抜きだ。」

『なに?』

「キス、させてほしい。」


結局、我慢出来なくなったからとはいえ、キスを求めたのだから勇敢かもしれない。

俺は彼女の頬に手を添えて、尋ねた。

それに対してしばらく蓬莱は躊躇していたが、気を許したのかゆっくりと目を閉じた。


『一つ聞いて良い?なんでキスしたいの?』


正しい質問だ。

確かに彼女には理由を知る権利はある。

俺は率直に思ったことを伝えた。


「……蓬莱が可愛いから。」


それに対し、蓬莱は目を閉じたまま笑った。

目を閉じていてくれてよかったと思う。

異常に緊張していたからだ。


『一応、女として見てくれてるんだ?』

「男にはとても見えないぜ?」

『ありがとう、』


感謝される理由がよくわからないが俺は彼女の唇に遠慮しながらほんの少し指先で触れてからゆっくりと唇を重ねた。


「やっぱり、蓬莱の夫になる男が誰かと思うと妬けるな。」

『……』

「俺以上の男じゃなかったら認めねぇ。」

『景吾、お父さんみたい。』


静かに笑う蓬莱に手を伸ばした。

両頬に手を添え、親指で唇の端から端までをなぞった。


「誰がお父さんだ、」

『景吾。』

「バカ言うな。」


再度、唇を重ね、角度を変えて幾度となくキスをした。

頬に添えていた右手は後頭部へ、左手は腰へと移動させ、より深いキスをした。

ふと気づいたことがあり、唇から離れて蓬莱をじっと見た。


「……蓬莱、」

『なに?』

「キス、初めてか?」


彼女の反応は言うまでもない。

なぜか謝らなければいけないような気がしてならなかった。


「悪い。」

『…謝らないで。どうしたらいいかわからなくなる。』


優しく抱きしめると彼女に弱々しくそう言われてしまった。

俺もどうすればいいかわからず、また謝ってしまった。


『バカ、』


外は賑やかであろうが、更衣室内には優しい空気、ゆっくりとした時が流れた。

その証拠に俺らは手を重ね、どちらからでもなく指を絡めていた。





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