act.48…ウェディング
本来なら楽しめるはずだった。が、こんな状況になった今だから全く楽しめやしない。
俺は悲しい現実に直面していた。
「んなぶーたれた顔しなさんな、」
「してねーよ。」
女装大会。
学園祭毎年恒例イベントでクラスから代表を2名ずつ選抜し、優勝者を決定する催しだ。
ちなみに男装を含むコスプレをする女子の大会もある。
俺に女装させるより、喫茶店で女装をして店員を努める岳人、飛び入り参加で丸井や切原にやらせればいいのに。
そう内心悪態づいた。
実際、このステージにあがる前、何度彼らを自分の身代わりに出そうかと思った。
しかし、その考えは儚く消えていった。
「帝王の跡部様より上位なら俺の価値が上がるな。」
とんでもなくくだらないことを考えている仁王に負けたくはなかったし、負けるなんてプライドが許さなかった。
軽く舌打ちをしてからしゃんと前を向いた。
「仁王、俺様を越えるにはまだ早いぜ?」
「さぁ?その時はもう目の前かもしれんじゃろに。」
蓬莱も見ているわけだし、なにより氷帝の奴らも会場にはいるはずだ。
帝王がペテン師ごときに負けるなんてあり得ない。
変な意地を張ってもどうにもならないのにな。
『なんか、女の子より可愛いかも。』
「ホンマやなー?ところでなんで岳人が代表にならへんかったんかわからんわ。」
「キモい侑士、」
ステージ上からパフォーマンスで観客に見せるだけ見せ、投票が開始した。
結果は翌日の閉会式に発表される。
企画司会者に解放され、仁王と共に仲間の元へと目指した。
「あ、仁王!」
「ぶっ、ははは!似合うー!めっちゃ似合ってるっスよー!」
「可愛いじゃんかよ雅子ちゃん。」
丸井と切原が仁王を見るやちゃかし始めたのに対し、仁王はいつものふざけた調子で鼻で笑い言う。
「雅美ちゃんって呼んでくれん?」
その一言で爆笑する二人。
仁王の二の舞になりたくなくて俺は身を翻したが忍足がそれを許さなかった。
「あら、どこ行くん景子ちゃん?」
「……チッ、」
「えらい別嬪さんやん。」
「テメェは岳人にだけ別嬪さん言ってろ!」
「もちろん岳人は「黙れ侑士!」
忍足も忍足だ。
悪のりしすぎたんだ。パンチの一つで我慢した岳人は偉い。
その内、嫌われんじゃねーか?
『雅治のあれは元が長いから地毛だろうけど、景吾のはウイッグ?』
「当たり前だ。」
『岳人からそのウイッグは特注って聞いたけど本当なの?』
人毛ウィッグ。
ウィッグだけではなく、衣装も今後、演劇部で活用されると聞いている。
この時だけのために用意した、なんて馬鹿馬鹿し過ぎる。
『こんなにも尽くされたんだから優勝しなきゃね?』
こんなコンテストで優勝してもあまり嬉しくはないが蓬莱がそんなこと言うから、嫌でも負けられなくなった。
『それにしても、ウェディングドレス。よく似合うね?』
俺は花嫁というテーマでクラスの奴ら(特に女子)が仕立てた。
ちなみに仁王はチャイナドレスだった。
「(……クラスの奴らに感謝しなきゃならねぇな。)」
ふと、名案が浮かんだ。
俺は蓬莱を連れ、演劇部専用の更衣室に来てすぐに衣装を脱いだ。
それでそこで待機していた女生徒に手渡した。
「悪いがコイツに俺の服着せろ。」
『ちょっ!景吾!』
更衣室にいた女生徒は実莉といい、演劇部に所属している。
衣装チェック、メイク、ヘアセットなどを専門として部にいる彼女は今回の女装大会では忙しく働いていた。
実莉はよく知る奴だからこそ蓬莱をゆだねられた。
その間、俺は化粧台にあったメイク落しで化粧を取り、普段の姿に着替えた。
「跡部様、出来ました。」
「実莉、冗談でも跡部様なんて呼ぶな。気色悪い。」
「ごめん。だって、なんかごちそうさま、な気分でテンションあがるんだもん。」
「バカか?」
実莉は更衣室のカーテンを開けて蓬莱を見せてくれた。
サイズ調整出来るような作りにした衣装を作った家庭科部を褒めるべきだろうか。
その努力ゆえに俺は一足早く可愛い花嫁を手に入れたのだから。
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