act.2…知らずに生きてきた
特定の女――彼女という存在は今の所いない。
いつも連れ歩く女を変えていた。
みんなが彼女というわけではなく、相手を好きになったというわけでもなく、暇を弄んでいたからというのが大きな理由だった。
しかしその日、俺がいつもしていたことを第三者的に見ることになり、自分を恥ずかしく思った。
『ちょ、離してよ!』
その声でその事態を見ようと目で声を追うとそこには一人の女が男にナンパされていた。
声をかけた奴の目は間違いない、と関心するまでに絡まれてる女は魅力的だった。
混じり気のない長い黒髪を風になびかせる彼女は芯の強そうな瞳を持ち合わせている。
程良く膨らむ胸に合わない細い身体。
そして、かなり気が強い。
扱いにくいじゃじゃ馬娘とくれば俺としてもおいしい女だった。
彼女にナンパした男の気持ちも理解できなくはないが、
「もう少し鏡の前で自分の顔を眺めたらどうだ?」
「邪魔すんのか!」
彼女は本当に嫌がっているように見えたから声をかけた。
“いい加減察して去れ”
そう言わんばかりに睨みつければ、男はすぐにすごすごと去っていった。
呆気ない。
『あ、ありがとう。』
「いいや?」
近くで見ると益々良い女だと感じた。
その時、約束していた女が俺の姿を見つけて近寄ってきたのが視界に入った。
そして、猫なで声で名前を呼ぶや、俺の腕に抱きついてきた。
すぐに腕を振り払いたい、そんな気持ちを抑えた。
「け〜ごっ!もう、こんなところでなにしてるの?早く行こう?て、この人……!」
名前さえ忘れた女(というよりどうでもいい)は彼女を見るなり目を見開いた。
俺はその理由もわからず黒髪の彼女の手を掴み、女に言った。
「悪いが先約があったの忘れてたぜ、」
『あ、ちょ、』
それだけ言い、彼女を連れて場所を移動した。
*
足を止めれば何か言われそうで怖くて俺はただ黙々と歩き続けた。
しかし、いい加減詫(わ)びを入れなければいけないと思い、口を開いた。
「勝手に連れ回して悪かったな、」
『平気。それよりもさっきの人はよかったの?』
「……名前さえ知らねぇんだからいいんじゃね?」
『それって、』
先の女との関係を悟ったのか彼女は口を閉ざした。
彼女はどう感じただろうか。
助けてくれた男がナンパ野郎と変わりやしねぇんだから良いようには思わないだろう。
「バカみたいだろ?」
『そんなことはないよ。ただ、そういうことする人って――』
詰まらせた言葉の続きを聞いた俺は意外なことに動揺した。
『寂しいんだろうな?って思っただけ。』
この俺が寂しい?
確かに財閥――海外でも名を馳せている大きな企業を両親が経営しているため、両親が日本にいることは少なく、親からの愛情など受けた記憶はない。
大きな屋敷の中、使用人が山ほどいても兄弟がいない俺は部屋ではいつも独りだった。
ただ、幼いときから俺専属の使用人として仕える中村ユエが俺の姉のような存在であった。
それに学校には友達もいる。
だから寂しくはない。
寂しくなんかないはずだ……。
「そんなこと、」
気がつけば涙を流している俺がいた。
15歳にもなって格好悪いという感情は不思議となかった。
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