act.45…星に願いを
この日、外気温はいつもより少しだけ涼しく、過ごしやすい夜となった。
そのため空気が澄んでおり、都会なりに星が輝き、いつもより綺麗に見えた。
『夜中になれば街の明かりが消えるからもう少し見えるかも。』
「あぁ、それに珍しく冷えるしな。」
『うん、楽しみだ!』
「夜中、見るつもりか?」
『折角だからね?目覚ましかけて寝ようかな。』
再び空を見上げ、数時間後の楽しみを思い描いただけで微笑んでいた。
何時に起きるかブツブツと検討しながら歩き始めた蓬莱について俺も歩き出した。
「何時に起きてくる?」
『そうだな〜…1時くらいかな?』
「なら、俺も付き合う。」
一人で見るより二人のほうが楽しいだろ、と付け加えて蓬莱と星を見る約束をした俺はいつもより少し早く就寝した。
しかし結局のところ、その約束が待ち遠しくて、興奮して眠れなかったのが現実だ。
約束の1時より少し前に身支度をし、俺は外へ出た。
空を見上げれば、街の灯りが少なくなったことで先よりも星の数が増えたように思えた。
『早いね?』
そう声をかけられて振り返り、その姿に目を疑った。
「なんて寒々しい格好してやがる!」
『平気だよ、』
「風邪ひいたらどうするんだよ。」
本人はなんら問題はないと思っているようだが俺からすればそうは思えなかった。
芝生の上に腰を下ろし、蓬莱に手招きした。
「来いよ、」
『は、恥ずかしいからいい!』
遠慮してそう蓬莱は言うが、風邪でもひかれては困る。
ここは無理矢理でも仕方ない。
寒さから守るためにも腕を引いて俺の股の間に座らせた。
「少しはマシだろ?」
『う、うん…』
後ろから抱き抱(かか)える形になり、背中から俺の心音が伝わっていると思うと少し緊張した。
しかし、蓬莱の髪からシャンプーの香りがほんのりして気持ち落ち着いた。
『東京でも綺麗だね。』
そんな風に蓬莱が言ってからしばらく黙っていた。
星空に見とれていたのだ。
ふとガキだった頃の岳人や忍足が星を見て言っていたことを思い出した。
「なんでほしはキラキラひかんの?」
「きっとほーせき(宝石)でできてんねん。」
「ほーせき!?スゲェ…おれ、ほしいー!おちてこないかな〜」
当時、価値基準がわからず宝石の一くくりで言った忍足やその言葉を真に受けた岳人が可愛く思えた。
ふと笑った俺に蓬莱は尋ねてきた。
『どうかした?』
「昔、岳人がな?」
そう話始めたときだ。
空に一筋の尾を引いて星が流れて行った。
『「あ、」』
すぐに消えてしまった星を見て昔の岳人が話てたことを引き合いに出して俺は思った。
“宝石が落ちた”
しかし、俺とは違う風に蓬莱は考えていたようだ。
『願い事出来なかった…』
「願い事?」
『流れ星に願い事するの。そしたら願いが叶うって話、』
子供の頃はよく聞いた話だった。
だから尚更、蓬莱のメルヘンチックな考えが可愛く思えた。
「なに願い事するんだ?」
『内緒。言ったら意味ないもん。』
「ふーん?」
『景吾は願い事ないの?』
そう尋ねてきた蓬莱に俺のはっきりした答えはあった。
ただ恥ずかしくて、まぁな、という曖昧な言葉を返してしまった。
『じゃあ、次に流れ星が流れたらお願いしたら?』
「…そうだな、」
俺の願いは蓬莱に会ったときから決まってる。
『あ、』
流れ星に願ってみようか。
それが叶うならば、俺はなんでもする。
「(蓬莱と、)」
『(景吾と、)』
“ずっとこうしていられますように”
もし、星に俺達人間の願いを叶える力があるなら、世界中の人間は幸福でいられるはずなんだ――。
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