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act.44…未来の旦那と花嫁


帰宅すると大抵は中村が俺を一番に出迎えるのに今日は中村の前に蓬莱に会った。

なぜかというと玄関の外で待っていたのだ。


『おかえり。』

「ただいま。主人の帰りを待ってたのか?ハチ公よぉ?」

『犬扱いはヒドいよ。』


顔を赤くした蓬莱は頬を膨らませた。

外で待っているくらいだからよほど、弁当の感想を聞きたいのだろうと思った。


「蓬莱?」

『なに?』

「おまえの弁当、うまかった。」

『……よかった。』


胸を撫で下ろすように言う彼女を見て俺は仁王たちが言っていたことを思い出し、蓬莱に伝えることにした。


「良いお嫁さんになるって仁王と岳人が言ってたぜ。」

『……景吾もそう思う?』

「もちろん。」


パァッと表情が明るくなり、嬉しそうにしている。

そんな彼女を可愛いと幾度となく感じてきた。

でも、最近は思っているだけで良いとか思えない。

手に入れたいなんて欲張ってきた。


「なぁ、蓬莱。なんで弁当作ってくれたんだ?」

『手作りなんてあまり食べないんじゃないかな?って思ったの。』


確かに食べたことがない。

学校給食や学食、家には一流シェフがいて舌が肥えているから手作り弁当なんか、と馬鹿にしていたところがあった。

蓬莱からの弁当は違ったが、過去絡んだことがあるヤツからの弁当はそうだった。


『それにただで泊めてもらってるしお礼も兼ねて。…なんて言うけど、実際は料理の腕が落ちるのが怖くて。』


そう言った言葉はチャンスとなったから、すかさず申し出てみた。

少し前ならこんな積極的ではなかったかもしれない。


「料理の腕が落ちるのが怖いなら弁当作ってくれよ。毎日とは言わねぇし。」

『……食べてくれるの?』

「もちろん、」

『じゃあ、…毎日作る。』


尻すぼみに言うのは照れている証拠だ。

最近、蓬莱の行動が読めるようになってきて嬉しい。

だからこそ、その仕草を見るとからかいたくなってしまう。


「一足早い、愛妻弁当だな。」

『あ、愛妻!?』

「毎日弁当を受け取って送り出してもらうなんてまさしくそうだろ?俺が手作り弁当を食べられるのは蓬莱がうちにいる間だけだろうけどな。」

『食べたいならいくらでも作るよ?』


気持ちは嬉しかった。

だが、高校生とはなんとやりにくいんだろう。

大人になりかけの子供だから夢見つつ現実を見るんだ。


「バカ、蝶がそんなこと言ってたら練習とかどうすんだよ。」

『私、現時点で良いお嫁さんになれるんでしょ?だったら必死になって修行しなくても未来の旦那様は文句も言わずに食べてくれると思う。でしょ?』


この未来の旦那様に彼女なりの含みがあったことを俺は悟らなかった。

俺は蓬莱が好きだが、蓬莱も俺を好いてくれていればいいのにと感じていた程度だ。


『景吾、未来の旦那様になる?』


不意を突かれた。

予想外の言葉に言葉を詰まらせてしまった。

昔みたいな図々しさや自信過剰な俺はどこに行ったんだ?


『冗談だよー』


惜しくも俺が答える前に逃げられてしまった。

なんで俺は肝心な時に言葉を詰まらせるんだよ。


『(私、やっぱり景吾が…)』


残念なことにお互いの気持ちが少しずつ惹かれていたことを俺が知る余地はない。





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