act.43…手作り弁当
あのバーベキュー以来、蓬莱の様子が変になった。
俺をジッと見ていることが多いかと思えば、空の下で口をポカンと開けて空を見上げている日もある。
自主練習をしていると思い、隠れて見ていれば空ぶってたり。
「どうなってやがるんだ?」
「さぁ、中村には人様の感情を詮索するような失礼なことは出来ません。」
中村に聞いてもわからないと言う。
蓬莱の様子を遠くからうかがうように促された俺は観察を続けることにした。
なにを考えているのかわからないが、あんな蓬莱は見たことがなかった。
*
その翌日。
蓬莱は俺の目の前にあるものを差し出してきた。
『やっぱりいらないよね…?』
悲しげな顔で差し出していた包み紙を引っ込める蓬莱から俺は慌てて受け取った。
「もらっていいんだろ?」
『だって景吾に作ったんだもん。』
「フッ、そうか…ありがとよ。」
手作り弁当だった。
嬉しいがなぜいきなり弁当なんか作ったのだろうか?
様子がおかしかった理由はこれなのか。
「わざわざ、早起きしてくれたんだろ?ありがとな。」
『ううん。口に合うかが心配だけど、』
そう心配そうに言う蓬莱に俺はすぐに返事をすることにした。
だいたい、そんな心配する必要ねぇのに信用されてないな。
「口に合わねぇわけがねぇだろ?ありがたくいただくぜ。」
『うん!』
頬を紅潮させながら嬉しそうに笑う蓬莱の頭を撫で回した。
乱れた髪を頬を膨らませながら整える彼女はまるで小動物(例えばハムスターとか)みたいだった。
中村に邪魔されなければもっとからかって遊びたかった。
しかし、中村が言うとおり、遅刻ギリギリの時刻であることを確認した俺は学校に行くことにした。
『食べてくれるかな…』
「大丈夫ですよ!全部残さず帰ってきますから。」
なんて中村に言われ、笑われているなんて俺は知らない――。
その日の昼休み。
いつものように岳人と仁王と三人で食堂に行った。
いつもと違うことと言えば、俺が手ぶらではないことだ。
「なに、その紙袋。お菓子?」
「向日じゃあるまい、」
そんなことを仁王に言われて岳人はなにか気づいたのか、ああ!と声を上げた。
しかも、その場にいた奴らに聞こえるくらい大きな声で。
「蝶の手作り弁当か!いいなぁ〜!」
それまでザワついていた食堂がシンと静まり返ったのはそのせいだ。
ここ数日のうちに噂が独り歩きしていたみたいだから仕方ない。
「あの景吾が手づくり弁当?」
「私のつくったのは食べてくれなかったのに!」
「じゃあ、彼女出来たっていうのマジだったのかな?今まで本気になったことないのにセフレじゃなくて彼女とかおかしくない?」
「手早いのにね?どうせ、噂なんだから。実際、そこら辺でひっかけた子なんじゃない?」
「だって、景吾だもんねー」
ひそひそと話をしていても俺にはすべて聞こえていた。
実際、そう言われても無理はない生活をしていたんだ。
俺になにも言う権利はない。
ただ、岳人が半ギレ状態で女子に向かっていくのは別問題だった。
「オイ!」
「岳人くん、どうしたの?怖い顔して〜。」
「跡部を悪く言うな!」
「だって、今までの行いが悪いもん。信じられないし〜?」
「岳人!もう、いいからやめろ!」
言い争いにでも発展しそうな雰囲気だったからなんとかの思いで止めに入る。
しかし、挑発するように言う女のせいでヒートアップすることになった。
「ねぇ、景吾〜?今度いつ相手してくれんの〜?」
「そうそう、私なんか彼氏だけじゃ物足りないもん。」
「……ッ、いい加減にしろよ!!跡部はなぁ!?」
「岳人、やめろって!」
「跡部は…跡部はおまえらみたいな下品な女を二度と抱かねぇんだよ、ぶぁーか(バカ)!!」
言い切った本人はスッキリした〜☆(星マーク重要)、なんてのんきに言っているが女が怖いことを知らない。
「下品ですってー!?」
「そうそう!鼻の穴広げて興奮してろ〜!ゴリラみたいにー」
「岳人!…うわ!やべっ、」
怒りに満ちた女子の数人が追ってくる姿を見るなり、慌てて岳人を抱え、逃げることにした。
「跡部〜、ざっと7人だぜ?」
「おまえのせいだ!」
「跡部を悪くいうヤツは俺がやっつけてやるんだ!」
「発言は嬉しいが、人が一生懸命走ってる時にバナナなんか食ってんな!」
どこから出てきたのか岳人はバナナを食べていた。
半ば口の中に残りを突っ込むと岳人はバナナの皮を女子に投げつけた。
「「「キャー!!」」」
投げられたバナナの皮が一人に当たり、後ろのヤツと衝突し、転けていた。
バナナの皮をそういうことに使えたとは知らなかった。
「バナナをナメたらいかんぜよ?プリッ、…なんつって〜」
バカにしたように笑う岳人につられて俺も笑ってしまった。
バナナの皮ごときできゃーきゃー言える女子に呆れてのこと。
さて、置いてきてしまった仁王だが、奴は後からのんびりと歩いてきて、転けている女子の横を通りながら笑っていた。
「跡部。屋上で食おうぜ?静かだしさ。」
「あぁ、」
女子たちを尻目に屋上まで来てようやく岳人を降ろすことができた。
持ち物を間違えて逃げた俺に本来の持ち物である紙袋を差し出しながら仁王が尋ねてきた。
「これ本当に蝶の手作りなん?」
「あぁ、なんか知らねぇけどな?」
「へ〜したら展開はまずまずじゃね?」
「なんだよ、展開って?」
「なんでもね〜よ。」
また仁王と二人でなにか企んでるのか、岳人が楽しそうに笑う。
俺はまたのまた、仲間外れだ。
「それより早く中身見せろよ!」
「俺も見たい、」
二人が覗き込む中、俺は弁当箱の蓋を緊張ゆえに震える手で開けた。
「凝ってんな〜!」
「まるで愛妻弁当やのう、」
女に弁当を作ってもらえた経験は今までにない。(というより断ってきた。)
だから余計、蓬莱の弁当にただただ驚いていた。
「毎日こんなの食べれたら幸せだよなぁ?」
ベテラン(母親)に作ってもらう機会があった二人が関心するほどの内容。
色合いも良く考えられていて、栄養もバランスがとれている。
もちろん味も良い。
100点満点のはなまるをあげたいもんだな。
「蝶はきっと良いお嫁さんになるのう。」
「なんか知らないヤツにもってかれたらすっげー悔しいよな?」
なんて二人の話も耳には入らない。
俺は蓬莱の作った弁当を味わいながら食べるのに必死だったのだ。
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