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act.42…恋来る


俺には二人が蓬莱の反応を見て楽しんでいるようにも見えた。

だから、あまりいい気はしなかった。


「よっしゃあ、したら俺と仁王の対決だぁ!」


仁王が岳人の真剣勝負に付き合ってるのをただ黙って蓬莱は見ていた。

どこか寂しそうだった。

声をかけようとしたとき、岳人がタイミングよく言った。

まるで俺を追い払うように。


「跡部、飲みもんほしー!」

「……仕方ねぇな、」


蓬莱が気になったが渋々その場を離れた。

それを待っていたかのように俺がいなくなるや岳人が口を開いた。


「蝶ってさ?跡部が好きなの?」

『その……』

「もしそうなら俺は嬉しいけどな〜」

「俺もじゃ、」

『……どうして?』

「だって、跡部があんな風に女に優しくしてるの見たことないし?」

「それにお似合いじゃし。」

『そ、そんなことはないよ…景吾ならもっと素敵な人とが似合うだろうし。』


俺は自分のことで精一杯だが、他人にすれば客観的に見て評価する。

俺は誰が見ても蓬莱が好きだと態度に表れているらしい。

自分を含め相手に気づかれていない辺り、かなり鈍感らしいが。


「「その容姿でよく言うよな?」」

『え?』

「だって、ふつうに蝶は美人だし!」

「女なら誰もが羨むくらいな?」


なにを話しているかはわからなかったが窓から見て、蓬莱が笑っていたから安心した。

ころころと表情を変えていることは気になったが。


「からかって悪かったのう。蝶が跡部を好きなこと確認したくてな。」

『か、確認は出来たの?』

「「うん、」」

『そ、そう…』


次に見た蓬莱は冷や汗をかいている。

なんの話をしているか興味をそそられた。


「あ、跡部。」


岳人がそう言うと蓬莱の肩が微かに動いた。


「なんの話してたんだ?」

『や、なんでもないよ?』


なにか隠すように笑う蓬莱の本心を見抜けるほど、俺には洞察力が備わっていなかったのが悔しかった。

つまり、蓬莱にインサイトは通用しないのだ。



*



花火の後、腹もいっぱいになり、満足そうに岳人は夢の中へ出かけていった。

それを見た仁王はため息をついた。


「誰がおぶると思っとうよ。まったく…よっこいせ、」

「ジジ臭ぇーぞ、仁王。」

「仕方なか。軽いというものの、たくさん食うたから重くなっちょるし。」


仁王が満腹故に睡魔に襲われた岳人を担いだ。

眠いながらも片づけるところまでは頑張って起きていたわけだから褒めるに値する。


「じゃあな、」

「あぁ、また明日。」

『雅治、ありがとう。』

「こっちこそ、」


仁王は俺ら二人に微笑してからゆっくり歩き始めた。

その姿が見えなくなる前に蓬莱は何かを思い出すように仁王めがけて走っていった。

それについていくのは不自然だからその場に留まったが、遠すぎてなにを話しているか聞こえない。

かなり気になる。


『ありがとう。』

「楽しみじゃ、アイツん反応が。じゃあな、蝶。」

『おやすみなさい。』


蓬莱は仁王を見送ると俺の元に帰ってきた。

気になって仕方ないから尋ねててみたが返事なんか決まりきっている。

なんでもない、という簡単な返答を聞くと寂しい気持ちにさせられた。

また俺だけ知らないなんて。


『ねぇ、景吾?景吾の理想のタイプってどんな人?』


不意に聞かれた質問に困惑した。

いきなりどうした?と聞いても不思議ではない。

俺の表情を見てか、彼女は先の質問に付け加えた。


『さっき岳人が理想図を語ってたからさ。』

「アイツはなんだって?」

『雅治みたいに優しくて、雅治みたいに暖かくて、雅治みたいに食べ物くれる人だって。』


完全に誰かのプロフィールと被る。

つまり、アイツは“誰”というより、“食い物”さえあればいいんじゃねぇか?


『岳人の理想は雅治らしいよ?』


ふふっ、と優しく笑う声が辺りに響いた。

俺の理想は目の前にあるから彼女を思いながら答えることにした。


「人を思いやるヤツ、」

『それだけ?』

「……分け隔てなく接してくれたり、すごく頼りになるんだけど、ふとした瞬間に女っぽく見えるようなヤツがいい。純粋な女がいいな。」

『へー?それは自分がひねくれてるから?』

「誰がひねくれてんだよ!」

『景吾、』

「バカ言え!」

『ッ、痛い痛い〜!!』


椅子に座っていた俺は即座に蓬莱を捕まえ、頭をペシペシ叩いてやった。

蓬莱が態勢を整えると俺が抱きしめる形になった。


『愛に飢えてるの?』

「かもな、」


なにも言わないし、逃げようとはしない彼女を見て少し安心した。

こんな態勢だから余計に嫌がられたら胸が痛い。


「蓬莱は?」

『え?』

「自分だけ言わないつもりかよ、」

『んー…そうだな。』


考えた末、口にしたのは――私が好きになった人が理想、だった。

理想に沿った男になりたかったのに。


「それじゃあ、蓬莱を好むヤツが理想に近い男になるように努力も出来ねぇだろが。」

『いいのー!私が好きになった彼はそのままで、』


変わられちゃったら困るの、なんて言いながら俺の額にデコピンをして蓬莱は笑った。


「蓬莱に好かれる男が羨ましい、」

『え…?』


蓬莱の髪を撫で、俺はデコピンのお返しとして額にキスをした。

キスした場所を手で触り、顔を真っ赤にする彼女は茹で蛸状態。


「茹で蛸みたいになってるぜ?」

『もう!』


あまり弄ると彼女が居心地悪そうにするのは目に見えてるからすぐに話を変えた。


「ほら、風邪ひくから中入るぞ。」

『バカは風邪ひかないの。』

「バカだから風邪ひくんだぜ?」


そう言った後に微笑んだら、アイツまた顔を赤くしやがった。

しかし、理由を考えても確信を持てるものなんてなに一つ思いつきやしなかった。





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