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act.34…焦がれる心


楽しかった一日もあっと言う間に終わってしまった。

名残惜しい気持ちで一杯だった。


「なんで1日って24時間なんだろうなー?もっと遊びたかったぁ〜…」

「例えば1日が48時間やったら、授業も必然的に長くなるんよ?」

「うげっ!それはマジ勘弁!」

「じゃけ、物足りないくらいの24時間が良いんよ?」

「そっかー…」


仁王に言われたことで岳人は納得したみたいだが、名残惜しそうに遊園地のゲートを潜(くぐ)ると振り返って園内を見ていた。

それを見て蓬莱はまた来ようね?、と子供をあやすように言うと岳人は満足げな笑みを浮かべた。


「蝶は子供をあやすんがうまいのう?」

「なんだよー!俺がガキだって言いたいのかよ!?」

「おまえはガキだろ?」

「バカアホ部!」


いじけながら走っていく岳人を見て仁王が慌てて小走りで追いかけ始めた。

しかし、なにかを思い出したように振り返り、遠くから俺たちに叫んだ。


「跡部、明日バーベキューする材料用意しときんしゃいよ?」


正直、忘れていた。


「あーはいはい、」

『気をつけてね。』

「ありがとさん。」
去って行く岳人たちに手を振り、見送った。

影法師が長く延びていき、やがてその頭も見えなくなった。

二人になると緊張の空気を和めるように蓬莱が口を開いた。


『岳人の言うことわかる気がする。1日、24時間なのはちょっと物足りないかな?って。』

「まぁな、」

『それは…それだけ楽しかったってことだよね?』

「そうだな。」


微笑んだ蓬莱を見て、胸が熱くなった。

今、俺は自然に笑えてるか?

自分の姿が自分ではわからなくて不安になる。


『じゃあ、景吾。バーベキューの買い出し行かない?』

「あん?そんなもの中村に頼めばいいだろうが。」

『わかってないなぁ〜。買い出しをするところからバーベキューは始まってるんだよ?』

「そういうもんなのか?」

『そういうもの。食材選びも楽しいんだよ?』


蓬莱に勧められ、食材を買いに自らスーパーに向かった。

その時に本当の仁王と岳人の努力がわかるのだった。



*



スーパーなんか岳人がアイスを食べたいとごねたときぐらいしか行かない。

だから俺が見るには珍しいものばかり並んでいた。


『なに焼きたい?ピーマンとか、タマネギとか人参?』

「(に、んじん……)」

『どうかした?』

「いいや、なんでもねぇ。」


男がこんな年になって人参嫌いだなんて口が裂けても言えない。

しかし、蓬莱に隠しても無駄だ。

洞察力に長(た)ける彼女は一瞬の表情や仕草から本心を読みとってしまうのだ。


『なにか嫌いなものでも?』

「……悪いかよ、」


だから否定したところでなになもならないし、嘘をついてもいいことなんかなにもないから素直に認めた。


「人参の生臭ぇのがダメだ。」

『ふーん?ま、誰しも嫌いなものくらいあるものだよ。』

「蓬莱もあんのか?嫌いなもん。」

『ま、ね?』


笑って誤魔化しながら先に進んでいく蓬莱の後ろを俺はただついて歩いた。

蓬莱の嫌いなものってなんだろう?


「なぁ、蓬莱?なんで俺の嫌いなもんがあるってわかったんだ?」

『だって、景吾はわかりやすいもん。』

「わかりやすい?」

『そ、前も言ったけど景吾の場合、全部ほっぺに書いてあるの。』


俺の頬を人差し指でつつく蓬莱の仕草で俺の心臓が爆発しそうになったことなんか彼女は知らないだろう。

そういうことに関しては鈍感そうだもんな。


「俺はわかりやすいか?」

『うん。ちょっとした仕草とかでも感じ取れるかな?』


そう微笑んだ彼女の隣には過去に俺が付き合っていた女の陰があった。


“なに考えてるかわからない”


そんなことを言われたのを覚えている。

きっと、俺を理解できるのは洞察力の問題ばかりではない。

俺自身が蓬莱に気を許せたから、蓬莱も俺に気を許してくれているのだ。

だから、お互いわかりあえるのかもしれない。

そんなこっ恥ずかしいことを考えていた俺は一人で暑くなっていた。


『どうかした?顔赤いよ?』

「なんでもねーよ!暑いだけだ。」

『そう?じゃあ、これ脱げば?』


一枚上に着ていたジャケットの袖を摘んでツンツンと引っ張る蓬莱。

体が熱いわけではないのだが蓬莱にそう言われちゃ断れなかった。


『これでいいでしょ?』

「あぁ、サンキューな。」

『どういたしまして?』


蓬莱はシワになるといけないからと言い、俺のジャケットを肩から羽織った。

大きすぎるジャケットを片手で落ちないように押さえる蓬莱の姿が可愛らしかった。





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