act.31…急接近
こんなに勢いがある岳人を止めることなど、恐らく仁王でさえ出来ないだろう。
俺は諦め、岳人に腕を引かれて(引きずられ?)遊園地まで着た。
そして、到着してすぐに強烈な乗り物に乗せられた。
「いやっほー!」
「…気持ち悪っ、」
「ひゃ〜〜!!」
ジェットコースターと言う乗り物はぐるぐる回り、吐き気を催した。
そんな乗り物なんか二度と乗らないと心に誓った。
「ははは!普段から乗り慣れてねぇからだぜ!」
“跡部はいい育ちだから”と嫌みを交えて笑い飛ばす岳人を恨んだ。
言葉さえ口に出来ない状態の俺は内で岳人に警告した。
「(こんな乗り物にわざわざ乗せやがって覚えてろよ…)」
そういうわけで俺は動けずにいた。
それを蓬莱が心配そうに見た。
さらに優しく声をかけたのを見てチャンスと思ったのか、わざとらしく岳人が声を大にして言った。
「あ、綿飴食いたいな〜?」
「はいはい。ほんじゃ、綿飴買いに行きますか。」
「じゃあ、蝶さ?“少しの間”跡部頼むな?」
『?…うん、いいよ。』
ニヤニヤと気持ち悪く笑う岳人が仁王と俺の視界から姿を消した。
首を傾げ、強調されていた少しの間、という言葉に疑問を抱えたまま蓬莱は俺が座るベンチを離れ、水道で親切にもハンカチを濡らしてきてくれた。
『少しはマシでしょ?』
「サンキュー…」
微笑んで手渡す蓬莱からハンカチを受け取った。
それは綺麗な花柄のハンカチで、まさしく“蝶”が好みそうなものだった。
優しく香る甘い香りはかぎ覚えのある香りだった。
『気持ち悪いだなんて可哀想…』
「岳人たち帰ってきたら一緒に回ってこいよ。俺は座ってっからよ?」
『なんで?一緒にいるよ。』
「岳人のために来たんだろうが、」
『岳人には雅治がいるからいいんじゃない?』
「……まぁな?」
『それに景吾一人置いてなんか行けないから。』
そう聞いて心臓が一瞬高鳴った。
聞き違いなんかではない。
わざわざハンカチをずらすのは不自然だから蓬莱の様子をうかがえなくて残念、としか言いようがなかった。
「それは保護者代わりか?」
『そんなわけないでしょ?心配だからに決まって――』
言い終わらないうちに蓬莱が急に俺の座る位置に近づいてきた。
「すいませんね?」
『いえ、』
どうやら蓬莱の隣に年配者が腰を掛けたらしい。
年配者のために席を詰めたにしても蓬莱と距離が近すぎだ。
腕と腕が触れている。
このうるさい心音が聞こえないことを必死に祈った。
この状況を遠くからあの二人が見ていたなんて想像できただろうか?
「うっわ!急接近じゃーん!」
「ばあさんのおかげじゃけ。ま、それだけじゃなかね。」
「俺のおかげっしょ!」
「……岳人くんもよう頭が働くようになったのう?えらいえらい、」
「やっぱし?」
このときの俺は精一杯だったからそんなことはできなかっただろう。
このときだけに限られたことじゃない。
そう、今も、今までも俺をバックアップしてくれた。
そんな二人に口で言いはしないが心から感謝してる。
二人のおかげで俺は生まれて初めてまともな恋愛が出来てるからだ。
『気分はどう?』
「もう平気だ。」
『よかった〜!ところで岳人たち……帰ってこないね?』
「そうだな?どこまで行ってんだ?」
待てど暮らせど帰らない岳人に俺は連絡することにした。
「はいはぁーい、もしもし?」
応対した岳人の声があまりにデカくて耳に響いた。
テンションが高い岳人は満足いくまで綿菓子を食べたとうかがえた。
「岳人、おまえどこまで行きやがった?」
「んーここどこだ?てか迷子?仁王ともはぐれたし。うん、これは立派な迷子だな。」
「はぁ…おまえなぁ?」
「ま、俺を捜しながら二人で楽しめよ!じゃあな!」
「あ、オイ!!」
そう叫んだときにはブツッと電話を切られていた。
岳人の最後の言葉、やたら強調されていた。
謀ったとしか思えない。
『岳人なんだって?』
「人混みで仁王とはぐれて迷子だとよ。岳人は背が低いから人混みではぐれたら見つけにくいんだよ。ガキと見分けつかねぇ。」
『そんなことないよ〜。』
そう言いながら蓬莱は笑っていた。
否定しながらも肯定の意を示す。
素直じゃねぇな。
「ま、声の調子を聞いてのことだが、泣いてなかったから平気だろ。」
『岳人迷子になると泣くの?』
「心細くなると泣くんじゃね?ガキと変わんねぇし。」
『まぁ…一人ってなのは誰でも寂しいし心細いものだよ。』
「そうだよな、それは蓬莱が一番よく知ってるんだもんな。」
『そんなこともないけど、その気持ちはよく知ってる。今は寂しくなんかないけどね?』
そう言い、俺の肩に頭を乗せる蓬莱とさらに急接近し、ドキッとする。
彼女の髪が頬にかかった。
『よし、じゃあ……』
しかし、彼女はなにごともなかったように急に立ち上がると俺の前に立ち、手を掴んで俺を立ち上がらせた。
『岳人たち探しに行こう?』
「……あぁ、」
『私が迷子にならないように手、繋いでね?』
そう照れくさそうに言う蓬莱を見て、俺の彼女を思う気持ちが強まった。
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