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act.30…まるで子供


翌朝、俺と蓬莱を岳人と仁王が迎えに来てくれた。

時間を大幅に間違えて。


「あーとーべっ!起ーきーろー!」


寝室に入ってくるなり、寝ている俺の上に跨ってきた岳人に夢の中で魘(うな)されて目覚めたのは言うまでもない。


「重…い、が…くと。」

「約束の8時だぜ!」

「……嘘だろ?」

「うん、嘘。」


嘘だとわかり、一発殴ってやる。

殴られた頭を押さえ、痛いと訴えてくる岳人を無視し、布団を深く被り直した。


「でも蝶は起きてたぜ?仁王とコートにいる。」

「……今何時だ?」

「6時、」

「あきらか集合時間より早いよな?」


俺は中村が6時45分くらいに起こしに来るものだと思いこんでいた。

しかし、岳人に起こされたあげく、蓬莱がすでに起きてると聞けば起きるしかない。


「跡部を動かすには蝶を使うのが一番だな!惚れた弱みってやつ?」

「ああん!?」


すごい勢いで跳び起きて岳人を捕まえるべく手を延ばした。

それに気付いた岳人は即効で逃げた。


「うお、ヤベッ!」

「バカ言いやがって、こんのバ岳人!待ちやがれぇ!」


岳人を捕まえ、頭をグリグリッと拳をこめかみにねじつける。

そんなことをされているのにどこか嬉しそうにしている岳人を気持ち悪く思った。


「そ、こないださ?蝶が告白されてた日あるだろ?」

「あん?」

「その日、蝶と約束したの!遊園地に行こうなって。おまえ、上の空だったけど。」


岳人の話を聞きながら窓辺に向かい、ガラス越しに見えた敷地内にあるテニスコートを見た。

そこには確かに蓬莱と仁王がいた。


「デート出来んだから感謝しろよ?」

「デ、デート!?」

「なーに新鮮な反応してんだよ。」


今まで数知れずの女とデート(最終的にはホテル行き?)をしてきた。

ドラマで描かれてるような、初めて付き合った相手との初デートに胸を高鳴らせる少女のように俺は柄にもなくドキドキしていた。

岳人の言葉に反論出来ないのはそのせいだった。


「準備する気になったか?」


横でニコニコ笑いながら俺を眺める岳人を横目に見ながら無言で支度を始めた。

すると、中村が部屋に入ってきた。


「あら、さすが岳人ん(がくとん)。いつも景吾を起こすのは一苦労なんですよ?」

「長年の付き合いだから。」

「と言っても最近は起こしやすいですけどね〜」


ニヤリと気持ち悪く笑う中村に洗濯物を投げつけ、さっさとそれ持って出てけ!と叱る。

はいはい、と笑いながら中村は洗濯物を受け取って出ていった。



支度が済むと俺を待っていた岳人とともに食堂に下りた。

そこには優雅にコーヒーを飲む仁王と楽しそうに話をする蓬莱の姿があった。


「お?おはようさん跡部。」

『おはよう。』

「あぁ、」

「やっと起きたんだぜ?」

「ご苦労さん、向日。」

「蝶スコーン食べてる〜!中村さん、俺も欲しい!」

「今ご用意いたしますね。」


俺はこの数日で味わった蓬莱と二人で過ごす朝の静かな一時が好きだ。

しかし、賑やかなのも悪くないと思った。


「なぁ、跡部?まだぁ?」


岳人はスコーンを食べている間は大人しかった。

しかし、それを食べ終わると俺を急かし始めた。

ゆっくり食べることも許してもらえず、俺は食後のコーヒーを一気飲み状態で飲み干す。

味わう暇なく、食休みもなく岳人に引っ張られた。


「まだ準備が「平気!」

「でも「よっしゃあー!行くぜ!!」


さらに話さえ聞いてくれなかった。

気合いが入ってるというより自分が楽しみにしていた遊園地を前に待ちきれないといったところだろうか。





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