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act.27…殺がれた気


蓬莱はこももを追いかけ、校内にまで進入していた。

全校生徒は体育館にいるため、校舎には生徒がいなかったおかげで警備員を呼ばれることはなかった。


『こもも!見つかったら怒られちゃうよ!』

「(平気らもん!)」


こももは愛するご主人様の居場所を少しでも早く見つけるため、周りをキョロキョロ見渡しながら走った。

体育館からわぁぁ、と歓声が聞こえるとこももの耳がぴくりと動いた。


「(あっちか!)」


仁王に会いたい一心で走るこもも。

人間が犬――中型犬サイズ――のスピードについて走るには限界がある。

さすがの蓬莱も疲れているようで、こももと距離が出来ていた。



*



体育館で行われている試合を観戦している生徒たちは十分に盛り上がっていた。

俺達はその真っ最中で失点を繰り返し、相手にマッチポイントを許していた。


「跡部、仁王、ここが踏ん張りどころだかんな!」

「「はいはい。」」


バイキングという言葉だけで異常に燃え上がる岳人を見て内心、突っ込んでやる。


「(いつから丸井みたいになったんだ。食っても丸井みたいに太らないからいいが、)」


その白熱している熱さにうなだれる俺と仁王は完全にどうでもいい、の世界だった。

会場内はクーラーが利いてはいたが、試合をしている本人たちは暑かった。


「ほらほら岳人。かかってきぃ?まだ天才を越えさせはしないけどな?」

「よっしゃあ!食らえ侑士!!一球、入…魂!!」

「それ俺の台詞です向日さん!」


気合いの入った岳人のサーブはあの細身からは考えられないくらい威力があった。

相手チームに忍足がいるせいもあるかもしれない。


「行くぜよ、跡部。」

「はいはい、」


ネット際でブロックするために高く飛び上がろうとしたときだった。


「まっさはるー!!」


すごい勢いでコート内に乱入してきたこももに気づくや、仁王はジャンプをやめ、こももを抱きしめるために屈んだ。


「仁王なにしてんだよ!」


一人でブロックにあたるがボールはちょうど仁王が守っていたであろうところをすり抜ける。


「なんで来たん?」

「だって家の玄関開いてたから抜け出して来たのー」

「(佳梨にぃの閉め忘れか?)」


マンガでよくあるシーンのようにハートを乱舞させるこもも。

すごいスピードで尻尾を振っている――って、そんなこといってる場合じゃない。


「仁王!!」

「なん?…あて、」


ボールは運良くも仁王の頭にあたり、軽くクッションした。

それを根性一つで拾い上げた岳人を俺は尊敬する。

なんでバイキングごときで燃えてんだよ。

俺がいくらでも食わしてやるってのに。


「ぅおらーっ!!」


岳人がボールを拾うとき、スライディングしたせいでジャージが一部溶けたのは言うまでもない。


「あっちぃ!ジャージ穴開いたぁ!」

「そら、スライディングすればな。」

「仁王のせいだろ!」

「無駄口叩くんじゃねぇ!」


ジャージを犠牲にしてまで繋いでくれたのをアタックして打ち返した。

元氷帝生、帝王と呼ばれた跡部景吾が天才忍足侑士に負けるわけにはいかないのだ。


「悪いなぁ岳人。貰うた!」


相手はもちろん打ち返してくるであろう。

集中しなければならないところだとわかっていたのに俺の意識は一瞬で殺(そ)がれた。


『こもも、どこにいったの?』

「ッ、蓬莱!?」


突如現れた蓬莱に目を奪われてしまった。

それを天才は見逃さなかった。


「隙ありー!!」

「!」


バコン!

その良い音と共に顔面に痛みが広がったと同時に涙もじわりと広がった。


「「跡部っ!!」」

「ゲームセット!」

「ゲッ、マジかよ〜!」


半泣きの岳人に仁王は仕方ない、となだめたがヤツにしたら納得出来ないだろう。


「バカバカこもも!おまえがこなけりゃ!」

「(えー?こもものせいなの〜?)」

「俺のバイキングがぁ〜…」


ショックなのはわかる。

でもショックなのはおまえだけじゃねんだよ。

泣くなバカ。





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