act.25…ヤキモチ 止めに入ろうとした俺を小さい体一つで必死に止める岳人。 暴れて振り払うことも出来ず、抵抗しつつ徐々に進んで行った。 「ちょ、跡部!喧嘩はダメだぜ!?」 「離せっ!」 ちなみ佳梨の足下には主人を見あげている一頭の犬がいる。 主人が自分以外の違うものを見ているとヤキモチを妬くもので、犬はどこか不満そうだった。 岳人を振り切ったそのときだった。 「(雅治!佳梨を発見!)」 「行ってきんしゃい。」 「(うぃ!)」 仁王とその愛犬こももが俺たちの横を風のように通り過ぎて行った。 俺と岳人に見向きもせず、仁王は一直線に蓬莱たちに近づいた。 「(佳梨ぃ〜!)」 「………こもも?」 わんわん吠えながら近づく犬の存在に佳梨は気づいたようだ。 邪魔が入ったため、佳梨は蓬莱を手放さなければいけない状況になった。 仁王が仲介人になったため、それ以上の展開は防ぐことができた。 「仁王の用事って…まさかこれ?」 岳人が3人と2匹を見てそう呟いた。 こももは佳梨に見向きもせず、彼が連れていた犬とじゃれあっていて、仁王は佳梨と半ば口論みたいな形になっていた。 「仁王くん、なんで教えてくれなかったの?蓬莱先輩のこと!」 「悪いけど、俺は跡部の見方なん。だからって佳梨にぃを見捨てるわけじゃなかよ?」 「……納得いかない。」 「仕方なかよ。お、亜姫。」 仁王は足下にいた佳梨の愛犬――亜姫(あき)というらしい――の頭を撫でるために屈んだ。 「(雅治〜、亜姫ったら佳梨がどうせふられるんだから、って見てたんだよ!)」 「ククッ、悪趣味やのう。」 「(だって、亜姫をほったらかしてー!この女は誰なわけ?)」 俺から見たら仁王が愛犬のこももと亜姫と会話をしているように見えた。 佳梨の犬は亜姫はやはり蓬莱にデレデレな佳梨にヤキモチを妬いていたみたいだ。 佳梨に唸ってかぶりついていたからな。 「ね、仁王くん?」 「なん?」 「もしかして謀った?」 「なんも?」 「俺の邪魔したとしか思えないし。」 「知らんよ?」 「どうせこももに臭い嗅がせて俺のとこまでたどって来たんでしょ?」 今も印象に残るのは佳梨がそう言った後の仁王が一瞬見せた、妖しく笑った顔だった。 “ペテン師”の異名を持つ仁王の本心は誰も悟れない。 二人が小声で口論している間、蓬莱はというと少し離れたところで犬二匹と戯れていた。 『雅治も犬飼ってたんだね?』 「ん?あぁ、佳梨にぃの犬とうちの犬は姉妹なん。」 『亜姫と?』 「ん、」 『へぇ〜…犬って可愛いよね?いるだけで癒される感じする。』 賢いこももは仁王が浮気するわけがない、と確信していたようで蓬莱にすぐに懐いた。 しかし、亜姫は違うようだ。 「そうじゃ、佳梨にぃ、亜姫が可哀想じゃ。」 「…ごめんね、亜姫。」 「(やっと?もう待ちくたびれた、)」 大好きなご主人様が自分ではない相手に釘付けとなれば、犬でも面白くないだろう。 ふてくされた亜姫を連れ、佳梨は仁王と一緒にその場からいなくなった。 その一部始終を見ていた人間の俺は絶対に亜姫より面白くない。 「あ、跡部…?」 「……帰る。」 「ちょ、ちょ!なに考えてんだよ!?」 「あん?家はこっち方向だろが。」 「わざわざ蝶のいる方から帰らなくてもいーじゃん!遠回りすればいいじゃん!」 俺が向かう方向を見て岳人はすぐに俺の腕にしがみつき、引き留めようとする。 しかし残念ながら、体が小さいゆえにそれも叶わず引きずられる結果に。 きっと今の俺を見て、岳人は止めようとしたのだろう。 「蓬莱。奇遇だな、こんなところで。」 『……景吾。』 「よ、よぅ、蝶。」 『岳人も。二人だけで歩いてるなんて珍しいね?岳人は雅治とセットって思ってるから余計かな?』 「仁王はこの時間、こももの散歩で忙しいから。だから跡部といんの。」 『雅治にはさっき会ったよ。』 「こもも連れてただろ?アイツ、こもも溺愛してっから。」 なにもなかったような顔をして岳人と会話する蓬莱を見て、疑問が生じた。 抱きしめられてイヤじゃなかったのだろうか? 「な、跡部?」 「…え?あ、あぁ。」 岳人の話を聞いてもいなかったから適当に返事をしてしまった。 しかし、その時は真面目に考えていたのだ。 「(俺は蓬莱にとってただの友達?なら鳳佳梨、アイツはなに?)」 考えるだけで胸が苦しくなった。 まだ、そんなことを堂々と聞くような間柄じゃないことが悔しい。 → |