[携帯モード] [URL送信]
act.24…知らなかった日常


その日、学校の校門付近で岳人がダルそうに歩いているのが見え、声をかけて駆け寄った。


「よ、岳人。」

「あ、とべ…はよー」

「なんか疲れてんのか?」

「電池切れ〜?」

「電池…?」


気だるそうにしている岳人を見て疑問符を浮かべたがなんとなく理解した。

その時、まさにタイミングを計ったかのようにヤツは現れた。


「岳人、おはようさん。」

「お、侑士!」


声を聞いて急に目に輝きが戻ると岳人は声がする方へ振り返った。


「久しぶりやな?」

「なんだよー!医学書ばっか読みやがって!少しは付き合えー!」


文句を漏らす岳人に返事をしようとした忍足の変わりに返事をしたのはその場に現れた仁王だった。


「忍足は医学書に世話焼いとう。じゃけ、俺がかまっちゃるきに。」

「仁王だー。はよー」

「あんな?仁王。岳人誑(たぶら)かすんやめてくれるか?」

「誑かすもなにも、菓子やっとったら懐いたんよ?」

「ホンマか岳人ー!」

「ヤベ、バレた?」

「(いまだに可愛いんやから…)仕方ないわ。」


会話を聞いている限りではなんだか怪しい関係に聞こえる。

俺は三人に周りから怪しまれるからやめろ、とだけ言い、先を急いだ。

それを見ると岳人が慌てて俺を追って走ってくるや、背中に飛び乗ってきた。

一瞬、視界が上下に揺れた。

後方では浮気者ー!と叫ぶ忍足がいた。


「な、跡部。今日の帰り付き合ってくんね?こないだ出来たカフェに行きてぇの。」


岳人が仁王や忍足を差し置いて俺を誘うなんてどうしたんだろう、と不思議に思った。

仁王は欠かさず愛犬の散歩に学校が終わると行くと言うのだから仕方ないが。


「(わざわざ、神奈川から連れてくるんだからな。)」


よほど犬を可愛がってるのか、それとも、仁王について来たのか。

あの犬の性格からすれば恐らく後者だろう。


「ダ、ダメ?」


俺の顔色をうかがいながら尋ねる岳人。

いつかテレビで見た金融会社のCMの犬みたいな目してやがる。

つまり、愛玩動物の域というわけだ。


「仁王に一応聞いたか?俺は予定ないが…あ。あそこに誘いを待ってるバカがいるぜ?」

「侑士連れていったらうるせぇもん、」


忍足を指さして言ったのに対して、岳人の返事は冷たいものだった。

期待していたらしく、目の前で踵を翻された忍足は若干沈んでいた。


「仁王には一応聞いたけど、散歩とは別に用事あるっぽいから。」

「そうか。なら、付き合ってやるよ。」

「マジ?やった!跡部サンキュ!」


子供みたいに喜ぶ岳人を見ているとなんだか心が温まった。

それはいいとして、仁王がこももの散歩以外に用事がある時点でなにかある、と気づくべきだったと思う。



*



放課後、部活のメニューすべてをこなした俺たちは新しく出来たというカフェに来ていた。


「うっまーい!」

「いつからそんな甘いもん好きになったんだよ、」

「仁王に毎日菓子もらうようになってから〜。うんうん、こっちもなかなかイケる!」

「はいはい。少しは味わって食えよ。」


現時点ですでに皿が4枚重なっている。

つまり、甘ったるいケーキを4つ食べたということだ。


「はぁ〜食った食った!」

「食べ過ぎなんだよ。たく、」

「よっしゃ、跡部行こうぜ!」

「はいはい。」


岳人に引っ張られ、俺は店を後にした。

今さっきケーキを食べたばかりだというのに岳人は片手に持参していた棒のついたキャンディーを持っている。

丸井みたいになるぞ。と忠告はしてやらない。

無駄だからだ。


「口に入れてると転んだとき危ねぇよ。」


そう違うことの注意を促しているときだった。

岳人が立ち止まり、俺も同じように立ち止まってみた。

岳人を見ていると顔色がみるみるうちに変化していく。

顔の前で手をヒラヒラと力無く振ると意識を取り戻したのか、急に俺の手を引っ張り、道の陰に連れていく。


「なんだ「シー!静かに。」


岳人は俺を押しやり、陰から向こうを見ていた。

なにを見ているのかわからず、俺は岳人の後ろで暇を持て余し、近くの石を蹴った。


「ぅわあっ!」

「何だよ。」


陰から見ていた岳人(の横顔)を見ると目が見開き、口元がひきつっていた。

さすがに気になり、岳人の視線の先を見てみた。


「ッ、…蓬莱?」

「ゲッ、なんで見てんだよ跡部!」


腕を引っ張る岳人なんかの力で微動だにせず、視線の先にいた蓬莱とある男を見ていた。

抱きしめられている姿を見て、こみ上げてくるものがあった。


「先輩……」

『か、り?』

「先輩、俺……」


俺はただ見ているなんて出来なかった。

イヤな予感がして二人を止めるべく、足を踏み出した。





あきゅろす。
無料HPエムペ!