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act.21…物語のように


翌日、俺らは学校があるため家から中村に追い出された。

もっと一緒にいたいが蓬莱にまで見送られちゃ仕方ない、と学校へ向かう。


「毎日好いとうヤツにいってらっしゃい、なんて言われたら我慢出来んじゃろに。」

「我慢?なに我慢すんの?」

「まぁ、お子ちゃまな向日にはまだ早いのう。」

「えー?教えろよぉ!」

「仁王、下手な刺激与えんな。うるさくなるだろ。」

「へいへい。」


そう。

人間は貪欲だから俺は日に日に“毎日、夫婦みたいなやりとりが出来たら良いのに”と強く思う――つまり、欲を持ってしまったのだった。



*



長い学校の授業が終わると今度は部活が待っていた。

早く蓬莱に会いたくて、時計ばかりむやみやたらに気にしていた俺はいつもよりミスが目立った。


「じゃあな、跡部!」

「また明日〜。」

「あぁ、じゃあな。」


待ち遠しかった帰宅の時間がくるといそいそと支度を整えていることに気付いた。

部活後、仁王と岳人の三人で帰路についた。その宅途中で二人と別れ、俺は自宅に向かった。

長い間、一人で彼女が何をしていたのか知りたくて、自然と足が速まる。


「あら、景吾。今日は早いですね。」

「中村。蓬莱は?」

「蓬莱様なら図書室にいらっしゃいましたけど?」


それを聞いてすぐに山ほどある本を納めている一室へ向かう。

本の量を見て中村は図書室と呼ぶ。

昔から一人で時間を過ごすことが多かった俺が手に取るものと言えば本だ。

あれは暇を潰すにはもってこい。


「蓬莱?」


静かに図書室の扉を開けば、本を読んでいる蓬莱の姿が目に映った。

集中しているのか何度声をかけても気が付かないため、仕方なく近くにあった本を適当に取り、静かに蓬莱の座るテーブル席の斜め前に座った。

それから数十分後。


『………ん?……きゃあ!!』

「いきなりなんだよ。」

『い、いつ帰ってきたの!?てか、いつからそこに!?』

「かなり前、」

『何で教えてくれなかったの?』

「何回か呼んだんだけどな。余程その本が楽しかったと見えたから、」


蓬莱は恥ずかしそうに顔を歪め、苦笑しながら言った。


『私は本なんかゆっくり読む時間、普段はないから…ごめんね?』

「いや、いいんだ。それより、こっちにいるのは休暇だからなんだろ?だったらゆっくり過ごせよ。」

『ありがとう。』


蓬莱は読んだ本の内容を目を輝かせながら話してくれた。

余程、楽しかったのだろう。


『最後まで恋人を支えた男性の愛がすごく伝わってきて……最終的に二人は結婚して暖かい家庭を持ったみたい。いいなぁ…』

「なにがだよ?」

『いろいろ。そこまで人を愛せることとか、幸せになれたこととか。』


まるで自分は無縁だとでも言いたそうな顔をしている蓬莱に俺は問い掛けてみた。


「蓬莱も幸せになれる、」

『なれるかな?』

「俺はそう思うぜ?」

『んー…でも今のところ、愛す対象になる恋人がいないからなぁ。』


そう聞いて、ホッと安堵した。

それと同時に恋人がいるのかどうかチェックするのを忘れていたことに気が付いた。

今までは彼氏がいてもいなくても関係なく女は吊れたからだ。


「恋人いねぇんだ?」

『第一、こんな女を好く人なんかいないって。』

「んなわけねぇよ。絶対にいる。」

『…そう?』


ここにいるんだからなによりの証拠だ。

だけど、それと胸張って言えるのはまだまだ先になりそうだ。


『景吾はモテそうだよね。』

「そんなことはねぇよ。俺こそ、本気で好きになるヤツなんかいねぇよ。」

『なんでそう思うの?』

「過去の行いが悪いから。」


そう反省しつつ言うが肩身の狭い思いをした。

自業自得ではあるが、なんとなく自分の答えに居心地が悪くなった。





あきゅろす。
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