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act.20…始まり



本当に蓬莱の反応を見逃さないように神経を張りつめていることを考えると暇ではない。


「蓬莱の一言が利いたからもうやらねぇよ。」


“寂しいのかな?って”


『だって、そんな感じだったもん。』

「親はいねぇ、兄弟はいねぇ、とくれば寂しくてもおかしくねぇよな。岳人たちは兄弟がいるからいいけどよ?」

『そっか……でも、今日からは私がいるじゃない?』

「……そうだったな。」

『だから寂しくないよ!きっとね!』


蓬莱はそう言い、微笑んでくれた。

きっとという言葉は自信に欠ける言い方で絶対という言葉なら確信できたはず。

しかし、なぜか蓬莱から聞いた“きっと”という言葉で確信を得られた。

どれだけ俺は蓬莱を信じているんだ、と自分に呆れたくなった。


『ホールで待ってて?今、荷物持ってくるから。』

「あぁ、」


ホテルに着くと蓬莱はカウンターで鍵を受け取り、すぐにエレベーターに乗って上って行った。

それから10分もしないうちに荷物まとめて降りてきた。

部屋をきれいに使っていたにしても、女にしちゃ早すぎだろう。


「ほら、かせよ。」

『ありがとう。』


蓬莱から受け取った荷物は意外にも軽かった。

もしかすると必要な物だけ入っているのかもしれない。

男みたいだ、と思うと笑えた。


『帰ろうか?』

「あぁ、」


俺たちはホテルを出て歩きだした。

家に着くまでの時間、ひたすら好きな食べ物について語り合った。

明日から蓬莱の分も料理を作るため、好きな料理を厨房に伝えようと思ったからだ。


「じゃあ、菓子はなんでも作れんだな?」

『パイは無理だけどね。』

「それはみんな無理だろ。」

『良いオーブンなら焼けるかもしれないけどね。』

「ふーん?」

『いつか作って、成功したら食べさせてあげるよ。』


そう言ってくれたことを信じた。

いつか蓬莱の大切な思い出でもあり、辛い思い出を塗り変えられたら、と思った。


「蓬莱?」

『なに?』

「改めてよろしくな?」

『うん。こちらこそ!』


女と同居する。

しかも、好きな女と。

それだけで夢を見てるように思えた。
ちょっと熱っぽい感じがする上にしっかりついているはずの足がふわふわと浮いた感覚に陥る。

これは間違いなく恋をしている。

15歳にして俺はようやく本当の恋愛をすることになった。





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