act.19…きっかけ
数分後、部屋の外で待たされた俺はダルくなって壁に寄りかかり、立っていた。
「蓬莱様、これからも景吾ぼっちゃまをよろしくお願いします。」
『…………はい。』
しばらくすると扉が開く音がする。
そのとき、仁王の飼ってる“こもも”という名の犬の気持ちが少しわかった。
飼い主がいつ現れるのかをずっと扉を見張るように、俺も扉を見ていたからだ。
「景吾ぼっちゃま。お待たせいたしました。」
「あぁ、」
『中村さん、ありがとうございました。』
「いいえ。では、私はこれで失礼します。」
中村は軽く会釈をし、その場から去った。
それから、蓬莱の荷物をホテルまで取りに行かなくてはいけないことに気づいた。
初めは1人で行くと言ったがいろいろ心配だからついて行こうと思った。
「少なからず荷物持ちにはなるだろ?」
『そんな、悪いよ。』
「いんだよ。それも筋トレの一巻。」
『ありがとう。』
お言葉に甘えて、と静かに笑い承諾を得た。
俺は蓬莱と家を出てホテルへ向けて歩き始めた。
ホテルまで距離はないというものの、夕方になるとナンパしてくるヤツが増える。
さらに夜になると変態が増えるため、夜道の一人歩きは危険だ。
いや、昼間でも蓬莱を一人で歩かせたくはないが。
『歩いていくけどいい?』
「あぁ、なんでもかまわねぇよ。」
蓬莱が上着を羽織り、扉に手をかけた。
そのとき、俺の視界に風呂上がりでホカホカしてる岳人がニンマリと気持ち悪い笑みを浮かべて手を振っている。
嫌々ながら岳人に手を振り、俺は蓬莱に続いて歩きだした。
「蓬莱、手ぇ出せ。」
『なに?』
素直に出してきた手を握り、俺はリードするように歩いた。
理由はなんにしても手を繋げることは嬉しい。
なんか自分が乙女思考になったみたいで嫌気がさすが。
「この辺はいろいろ危ねぇんだよ。痴漢とか変態とかな。」
『そうなんだ…』
「昼間はまだいいが、夜は一人で歩くなよ?」
蓬莱は少し嬉しそうに笑い、俺の手を握り返した。
『ありがとう!』
「…まぁ、ナンパ避けにはなるだろ。」
『今までナンパしてた人に言われたくないけどね〜』
「うっせぇな。」
これに対しては本当になにも言えない。
『可愛い子は即ロックオン?』
「ロックオン言うな。」
響きが悪い上に古い、と言えば無邪気そうに笑っていた。
「(ナンパなんか二度とするかよ。)」
すでに俺はそう、心に思い定めていた。
彼女に出会って俺は変わったんだ。
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