act.12…悪あがき
俺は明後日のこと――パイを作ることが恐ろしくてなにも考えていなかった。
しかし次の瞬間、なにかに思い出したように恐る恐る仁王が口を開いた。
「……のう、跡部?」
「あん?」
「よう考えたら部活忘れとう。」
「……うわ!監督と部長からゲンコツ食らっちまう!」
「そんなら3人仲良くタンコブつくればいいじゃろ?監督と部長からじゃき、一人二つじゃのう。」
バランスがいいように右と左に一つずつがいいな、なんて暢気なことを言った仁王に対し、岳人は痛いのは嫌だと呟いて凹んだ。
『私のせいだよね……ゲンコツされたらごめんね?』
「え、あ…蝶のせいじゃないから大丈夫!」
そう岳人は言ったがやはり頬にゲンコツは嫌だと書いてあった。
申し訳なさそうにしてる蓬莱を見て仁王は大したことじゃない、と岳人をなだめた。
まぁ、仁王のことだから大人しく頭を出す気がないか、逃げる気満々なんだろう。
『じゃあ、私はここで失礼するね。明後日楽しみにしてる。』
その場で別れを告げ、振り返っては手を振ってくる蓬莱の姿が見えなくなって俺たちはようやく手を下ろした。
「しかし、跡部がアップルパイね〜?」
「うっせ!」
「失敗したのは食べてやるぜ?」
岳人は俺の背に手を添えて特訓だな、と呟く。
なんで強がってあんなことを言ったのだろうか、と後悔しながら俺たち部活に戻ることにした。
*
ラッキーなことに部長が不在だった今日、部活は後半に入っており、俺たちの姿を見るやすごい剣幕で副部長の先輩が走ってきた。
そして、笑えない結果になった。
全然ラッキーじゃねぇ。
「まだ頭痛ぇーし。」
「仕方なか。跡部んせいじゃけ。」
「俺のせいなのか!」
「いやいや。跡部のため、の間違い。」
そう冗談をかましながら先頭切って歩く仁王とその背中にのっかる岳人。
いく先は俺の家だ。
「「お邪魔しまーす。」」
「あら、岳人んに雅治。今日はどうしたんですか?」
「中村、」
「はいはい、なんでございましょう?」
「アップルパイの作り方教えろ。」
中村の反応は目に見えていた。
ものすごい変な顔で俺を見ている。
「頭へーきですか?」
「俺はいつだって正気だ。時間がねーから早くしろ。」
「中村だって滅多に成功しませんよ?」
中村は毎日、俺のために菓子を作るがパイなんて出てきた記憶はない。
つまり、それだけ成功率が低いということだろう。
「俺も。ユエがパイ焼いてて成功させたの見たことないんじゃけども…」
「……それでもいい。早くしろ。」
「それが人に頼む態度ですかぁ〜?」
こういうとき、普段と立場が逆転して優勢になると強気になる中村の態度が気に入らない。
しかし、今は急いでいるから仕方ない。
「お願いしますー」
「お、棒読みだけど頭下げた!跡部にしたら上出来じゃん!」
「うるせ。」
こうして俺は徹夜でアップルパイを焼く練習をすることにした。
調理時間は作り方にもよるが、5時間くらいかかるらしいが文句は言えない。
徹夜でひたすらパイ生地を作ったせいで二度とパイなんか見たくないと思う。トラウマになった。
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