act.64…頼りにならないか
蓬莱と付き合い始めて2年が経過していたが俺らの交際は順調だった。
あの約束も守っていた。
周りも認める清い交際が続いていた。
「Because I made Keigo, the schedule of this month, do confirm it?
(景吾、今月のスケジュール組んだから確認して?)」
ある日、事務所に呼ばれて来ていた俺はマネージャーにスケジュール表を手渡されて確認していた。
「(日本で試合?)」
見れば試合があると書かれている日があった。
普通の試合ではない。詳細(というほど詳しくないが)によれば日本での試合なのだ。
「(久しぶりだな、日本。)」
仁王や岳人に会える、帰国した佳梨にも会える、両親に会える、いろいろ思い浮かべると嬉しかった。
そのことを蓬莱にすぐメールで連絡を入れた。
すると返事が来て驚いた。
俺の方の事務所で詳細を聞かなかったからだ。
すぐに事務所で確認をとり、蓬莱に電話した。
「聞いてねぇし。シングルスの試合で蓬莱とやるなんてよ。」
『一緒に組むことはあっても試合することなかったもんね?』
アメリカのプロテニスプレーヤーのカップルとして周りから注目され、ミクスドダブルスで試合に出されることがこの2年間、多々あった。
それがカップル同士で試合だなんて。
『私と景吾、どっちが強いのかな?』
すべて蓬莱の申し出だと知らず、俺は日本での試合に向けて体調を整えた。
その一方で不安を抱え、一人戦っている人物がいるなんて思いもしなかった。
恋人がライバル。
恋人という関係が成長しても“ライバル”という関係は続くと思っていた。
何度か蓬莱の練習を覗きに行ったがそこで見た彼女は苦悩していて、不安一色だった。
「蓬莱、体調でも悪いのか?」
『テンションが上がらなくてね、』
「珍しいな。」
なにを思ってるのか。
恋人の俺にも蓬莱は弱音を吐かないから、俺はただ蓬莱のそばにいるしか出来なかった。
『景吾、眉間にシワ!』
でこピンをされて悶々と考えていたことに気づいた。
蓬莱を見ればすでにラケットを持っていた。
『ラリーしよう?』
「軽くな?」
『軽くね?』
ずっと二人でテニスが出来ると思っていたが不安が募った。
彼女の異常な早さで体力を消耗していくことやパワーが落ちていくこと。
「なぁ、蓬莱?」
『なに?』
「蓬莱の夢はなんだ?」
『夢?そうだなー』
考えながらラリーを続けていた蓬莱は思いついた、と言わんばかりに笑って言った。
『景吾のお嫁さんになること。』
「バーカ。そんな夢、すぐに叶うだろうが。」
『ありがとう。そうね。将来的職業の夢だと――』
蓬莱は表情を一瞬曇らせたがすぐに笑顔を取り戻して言った。
『テニススクール開きたいかな?小さな子供たちにテニスを教えたいの。』
「蓬莱らしいな。」
『でも、夢だから。』
蓬莱、もっと俺を頼れよ。
そう言えたらどんなにいいかと思う。
蓬莱は自分の限界をわかってるから、自分が崩れかけたときに支えてほしい、程度にしか助けを求めてこないことを俺は知っている。
自分から悩みを打ち明けることがあれば、自分だけで解決出来ないと真に思ったときだけ。
今は平気なのかもしれない。
だが、もし俺を頼れない理由が“恋人”だからだとしたら――すべて頼ってくれる間柄になるまでだ。
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