act-07 跡部景吾
【苦痛と心痛】
景吾を欲している自分に恥ずかしさはすでになかった。
景吾と快感故に溺れたい。
狂う程、景吾を感じたい。
『景吾、…あなたがほしい。』
涙ながらに言うと景吾は私の目尻に唇を落し、舌で唇を舐めてしょっぱい、と文句を言った。
髪を優しく撫でて温かく笑った。
――ように見えただけだった。
「自分で挿入れろよ、」
景吾がそう言った時には私の股の間にいたのにいつの間にか体勢を替えていた。
抱きしめてぐるっと反転させたらしく、気付いた時には自分が景吾を見下ろしている形になっていた。
『も、しか…して…?』
「ほしいんだろ?なら自分で挿入しろよ。」
これが彼のお仕置きだと早くに気付いていたなら私は気付いた時点で引き換えしていただろう。
『触っても…大丈夫?』
「どうぞ?」
どれだけ自分のアレに自信があるんだろう?なんて思いながら、景吾のそそり立つそれを支え、腰を沈めるために腰を浮かした。
初めてする経験に緊張して飲み込んだ唾液が喉を通るときにゴクリと音を立てた。
『(…怖い、)』
腰を降ろした時に自分がどうなるかが想像できなくて怖い。
引き返せない悲しさに目を閉じ、思い切って腰を沈めた。
『ん、はああんっ!』
「っ、」
一人で声をあげて情けなく思った。
残念ながら熱を失うことはなく、予想していた以上に大きい景吾のモノを締め付けている自分がいた。
「自分で腰、振れよ?」
『やだ、恥ずかしい。』
今更だけど再び恥ずかしさが戻ってきた。
景吾は悪趣味だと思う。私が一人で乱れる姿を見るために下から軽く刺激を与えてくるんだもん。
「どうだ?」
『っ、』
景吾の鍛えられた胸板に手をついて彼の攻撃をかわそうと腰を浮かした。
しかし、それが許されることはなく、景吾は腰を掴んで無理矢理私を座らせた。
「結菜、仕置きだって言っただろうが。」
『意地悪!』
「辛いのは結菜だろ。」
このままで辛いのは私も景吾もお互い様なのに余裕を見せ付けてくる彼に意地を張るのが馬鹿らしく思えてきた。
『も…我慢できなっ、!』
腰を動かし始めると景吾のそれをより圧迫させることが出来た。
『ん、んっ、あ、あ、ああ!』
気持ち良くて自分が今どうなってるか冷静に考えられなくなっていた。
胸が弾みで揺れていることを気にかけることはなかった。
ただ、ひたすら腰を振って喘いだ。
『はぁはぁはぁ…っん!』
慣れない体勢に疲れていると景吾が下から突いてきた。
「もう限界か。早くねぇか?」
『なら、景吾…が動いてよ。』
景吾は上半身を起き上がらせ、そのまま私を押し倒した。
「結菜のナカ熱すぎで茹だりそうだぜ。」
『バカ!』
「そういやさっき、結菜の胸揺れるに揺れてたな。あんなの見たことねーよ。激し過ぎだろ。」
笑われてもなにも言えない悔しさなんてすぐに忘れた。
景吾に揺すられることになったから。
恥ずかしくて腕で顔を隠してもすぐに手を拘束された。
彼に顔を見ていたいと言われ、より抵抗して顔を覆おうとした。無駄だったけど。
『あ、あ、あっ、』
「つっ、」
『はあ、ふ、うんっ、』
喘ぎつづけて喉が乾燥しても喘ぐことは止められなかった。
景吾が動きつづけたから。
「おら、イケよっ!」
『ん―――あぁあっ!』
綺麗に延ばされたベッドのシーツがよれても、シーツが二人の作り出す愛液で汚れても、滴るほど汗をかいていても、景吾はやめてはくれなかった。
「……」
『限界っ、腰と骨盤痛いっ。』
「明日は筋肉痛だな。」
ふと笑う景吾をバシッと叩いてやった。
今までとは比べものにならないくらい長時間足を開いていたせいで骨盤が軋むような痛みが残った。
それでも文句を言える立場ではない。
「なぁ、結菜。」
『うん?』
「結菜は俺が好きだろ?」
『うん。』
不安そうな声だったから自分の今までの言動で彼を傷付けていたんだ、と感じた。
初めて私がわかる形で傷を見せてくれた。
『ごめんなさい。ごめんなさい景吾。』
抱き寄せた彼の表情は見えないから悟れない。
でも、悔しそうな声でこう言った。
「何度やっても初めての相手にはなれねぇよな。」
景吾は今まで執事たちに気をつけるように促してきてくれた。
私がもっと彼の忠告に留意していたら、こんなことにはならなかった――。
そして、体が執事たちに仕えていなければ――。
『千歳!』
「ん?」
『どうしてくれるのよ!景吾としか寝ないって決めたのに!』
「へー。俺んせぇにするん。ばってん、自分で俺の舐めたったい。」
景吾との約束を交わしてこれか、と落ち込む。いや、それ以上だった。
全身の血の気が失せるような、体温が低下していくような感覚に陥る。
『景吾に尽くすの。約束したのよ…』
その約束をもう破ってしまった。
最低もいいところね。
婚約破棄にでもなればお互い辛い思いをしないかもしれないのに――と、思っても仕方ないことをひたすら考えていた。
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