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act-05 跡部景吾

【嫉妬】


もちろん、彼ら――執事――とのことは婚約者である景吾に報告すべきだと思う。して当たり前だ。

ただ、淡い感じの色恋沙汰以上である18禁並の内容を素直に言えたら苦労はしない。

例え、彼がすべてを知っているにしても今だ彼に告げられずにいた。


「結菜、」

『うん?』

「なんでそんなに離れてんだ?」


わかってる。やましい気持ちがあるから、婚約者と距離を設けてること。

それを彼は早くに気付いて、私の気持ちを配慮しつつ距離を詰めようとしてることも。


「なぁ、結菜。」

『なに?』

「あることを隠し通そうとしてる女ほど、惹かれるもんだ。」

『そうなんだ。』

「内に秘めているものが美しさとなる。ただ、それは恋人という関係以外の人間の話だがな。」


景吾の言いたいことはわかる。

秘密という言葉はどこか艶やかな、そして妖しい響に感じられる。

しかし、それは恋人には当て嵌まらない。相手のすべてを知りたい、という思いにより相手に固執する傾向があるから。


「…怒らねぇから。なんでそんな負い目を感じたような面してやがるんだ。」

『景吾……実は――』


安心させるために怒らないと、そう言ってくれた景吾の目には戸惑いの色が浮かんでいた。

伝える勇気はない。


「……ふっ、なんなら言わずとも、身体で報告してくれてもいいぜ?」


ぐっと距離が縮まり、思わず近づかれた分、私は後ずさった。

それに対し、距離を詰めてくる景吾。

私は逃げ続けることは出来ず、虚しくも背中に壁がぶち当たった。逃げ場はない。


「俺ら婚約者だろ?」

『景吾…!』


視界から顔が消えたと思うと敏感な首の肌にやわらかいなにかが触れて身体がひくりと過剰に反応した。

それが唇だと見なくてもわかる。


「………結菜。」

『な、に?』

「いい教育されてんな。」


不機嫌な声でそう言われても褒められたようには聞こえなかった。これは間違いなく嫌みだ。

なにに対してそう言ったのか、私にはわからなかったけど。


「…飼い犬を仕付けるのは主人の役目だろうが。なに飼い馴らされてんだよ。」


景吾は人差し指でうなじから首筋にかけて滑らせ、ある一点で止まった。

それで気付いた。

キスマークをつけられていたと。


「誰かは知らねぇが。俺様に挑戦状をたたき付けるなんて良い度胸じゃねーか。」

『景吾ごめんなさい!』

「別に怒っちゃいねぇよ。」


彼が怒らないなんてあるのか。

元々の付き合いを親同士が決めたにしても当人らで契りを交わし、婚約していることに変わりはないのだから。


『ちょっ!』

「怒ってはいねぇがな…?」

『ならいいじゃない。』

「なんで先越されたあげく、お預け喰らわなきゃならねぇんだよバーカ。」


首筋に息が吹きかかる程、彼は接近してくるとクスッと小さな笑いが聞こえた。

それもそのはず。

景吾はこれから私に悪戯を仕掛けようとしているのだから。


『んうっ!』


火傷でもする要因なんかあっただろうか?

そう思うような痛みが首筋に走った。

紛れも無く景吾がキスマークをつけたせいなんだけど。


『やめて!』

「おまえんとこの執事には付けさせるくせに婚約者はダメってか?」

『っ、』

「随分、身分が下がったもんだな。」


そう景吾は笑ったけど目が笑っていないもんだから、これからなにをされるか大体想像がついてしまった。


「結菜は俺のもんだろうが。」


首筋にまた一つ、また一つとキスマークが付けられた。

彼は私の着ていた服の襟をずらし、鎖骨を舌でなぞった。

ゾクッと全身を小さく震わせ、彼の舌を感じることに敏感になった。


『け、…ご。』

「俺はおまえを誰にも譲る気はない。」

『…うん、』

「結菜をこんなに愛せるのは俺だけだ。そうだろ?」

『っ、…うん。』


下から潜り込んできた手が下着越しに柔柔と胸を揉んできた。

自分のカラダの芯が徐々に熱くなりつつあることを感じながら、下着越しに触れてくる彼に焦らされていることにもどかしさく思った。

その手で触れて。

その目で見て――私のすべてを。


『ずるい!』

「言わなきゃわからねぇよ。」

『インサイト。』

「テニス以外で使う気はねぇ。」


彼の悪戯に耐えられそうにない、そう感じたからキスをしてから景吾の目を見て訴えた。

すると伝わったのか、彼は手を引っ込めた。

ただ引っ込めたのではなく、いやらしい手つきで刺激を与えながら。


『エッチ、』

「どっちがだよ。」


景吾に悪態をついても無駄なのに恥ずかしさから素直にはなれなかった。

勇気を出して服を脱いだ。

それを景吾は一歩下がったところで片手を腰に当てて立って見ていた。

背中に冷たい壁が触れて、予想外の冷たさに身震いした。


『……なにか言ってよ。恥ずかしい。』

「下着も自分で脱いでから言えよ。」

『っ、』


この男はどこまでも意地悪だ。

前々から知っていたけど。


景吾の目から目を反らせられないまま私は背中のホックに手を延ばした。

ホックが外れると支えつつ締め付けていたものがなくなり、胸が緩んだように感じた。


「ブラ。俺に渡せ、」


そう言った景吾に付けたいの?なんて冗談を言う勇気はなかった。

その目が優しさを含んだ眼差しではなかったから。

自分で脱げ、と言ってるんだと思う。


「手で隠してどうすんだよ。」


景吾に下着を投げた瞬間、自然と自分の身を手で覆った。

それに対し、不機嫌そうに景吾が口を開いた。


「…仕方ねぇな、」


あんまり意地悪するなら触らせない!

いつもなら景吾にそう意地を張っただろう。

今の状況では彼に逆らえない。


「胸はでかくなったか?」

『白石に聞いて。』

「(アイツが一番に手出したのか。)聞いたところで教えるとは思わねぇけどな。」


汗ばんだ肌に触れられるとそこが熱を帯びていった。

胸の頂を舐められて、弄られて、吸われて、呼吸が乱れてきた。


「さっき、結菜に怒ってはない、とは言ったな。」

『うん、』

「だが、これはあくまでお仕置きだ。」

『……セックスが?』

「嫌でも止めてやらねぇから覚悟しやがれ。」


景吾の目は笑ってないのに口角が上がる。表面だけで笑ってみせた。

私は彼のお仕置き(悪戯)に耐えられるだろうか?


「その邪魔なスカート脱げ。」


はいていたスカートを脱ぐように指示され、それに従って脱いだ。

それから次にパンツを脱ぐように言われた。


「出来ないって言うのか?」

『だって…』

「あーん?なら罪を償う気はねぇと解釈するぜ?」


ずるい。

本当にずるい。

私はとんでもない男を敵に回してしまったみたいだ。…なんて今更反省しても仕方ない。


『脱げばいいんでしょ!』


自棄(やけ)になって、体を覆っていた最後の布を剥いだ。

耐え難い恥ずかしさに目を閉じて俯いた。


「…よく出来ました。」


景吾はそう笑うと手をひいてベッドまで連れて来た。

そして強引に押し倒すと唇を塞ぎに来た。

呼吸が出来ないくらい深く長いキスに頭が真っ白になる。

間もなく舌が滑り込んできた。

それに対し、逃げても無駄だとわかりながら捕まるまいとして逃げ回った。

やがて舌さえ彼に捕らえられ、彼の舌に絡まった。


『んっ、はっ…ふ…』


唾液が混ざり合う音と濡れた唇が重なり合う音が粘質な音を生んだ。

快楽に溺れそうになる自分の思考力をなんとか繋ぎ留めた私は景吾の首に手を回した。

負けたくない。

主導権を譲りたくない。

なのに彼に勝てない。経験を積んできたのか彼のキスだけでとろけそうになってる自分がいた。


「足上げろ、」


そう指示されたとき、景吾のベルトが通ったズボンが床にたたき付けられた音がした。

いつの間に脱いだんだろう?

こんなにも彼を欲している手前、今更拒むことも出来ず、素直に膝を持ち上げた。

腰からお尻を通って太股、膝裏へと手を移動してきた景吾の動作にカラダは間違いなく反応していた。

悔しい。





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