act-01 仁王雅治
【お仕置き】
我が家には5人の使用人(執事)がいる。
みんな優秀でよく働く。
ただ、その5人はちょっと個性的…いや、かなり個性的。
「どこに行くんじゃ、お転婆お嬢様?」
私をお嬢様とは認めてくれているものの、今の彼――仁王雅治は嫌みを兼ねてそう呼んだ。
『どこでもいいでしょ。』
それに対し、私はそっぽ向いて冷たく言った。
仁王と言えば、ちょっと意地悪でいつも私を騙すんだもん。だから信用出来ないのもあって、適当にあしらうのが常。
「冷たいのう、」
『どっちがよ。』
「で、今日はどちらに?」
『景吾んち。』
「…婚約者の家に赴くなんてはしたないぜよ?」
『仕方ないじゃない。呼ばれたんだから。』
顔を見なくてもわかる。彼はなにか良からぬことを思い巡らしている。
きっと、行き先が婚約者の景吾の家だからだろう。
婚約者と言ってもそれさう疑うような関係だし、私たちは互いにあまり意識はしていない。
「いつお帰りになります?」
『明日。』
「…ぶっ殺すぜよ?」
『わ、わかりました!今日中に帰ります!』
「承知いたしました。」
今の絶対本気だった。マジで殺されるかと思ったわ。あの笑顔はヤバイ。
私は恐ろしくなって早々に家を出て跡部邸を目指した。と、言っても景吾が迎えにきてくれたから楽してるけど。
「よぉ、調子はどうだ?」
『まぁまぁね。』
「執事らは働いてるか?」
『一応、』
仁王は忠犬みたいに常々、私の後をついて歩く。もしかすると私で遊ぶネタを収集してるのかも。
『いつ帰宅するか聞かれて、明日って答えたらぶっ殺す、だってさ。怖い怖い。』
「ぶっ挿入(さ)す、の間違いじゃねぇのか?」
『え?』
「いや…」
景吾の言葉はよくわからなかったけど、復唱してくれないんだからたいした内容ではないんだよね。
『だから、今日中に帰る約束したの。』
と景吾に言ったものの、自宅に着いた時はほんのわずか時間が進み、“明日”になっていた。
帰宅した私を仁王が出迎えしてくれるに違いない。
言い訳考えないと。
『た、ただいまー…』
「おかえりんしゃい。」
『ひっ!』
案の定、待っていた。
早く謝らなくちゃ、という気持ちがあったのに焦りが募ったせいで言い訳をしてしまった。
『敷地内には昨日帰ってたの!景吾と話してたら2分家に入るのが遅くなったの!』
「…はいはい、話はちゃんと聞いちゃります。じゃき、まずはコートを脱いだらどうじゃ?」
『(顔が笑ってない!)』
仁王は私の着ていたコートを引っぺがすように剥ぎ取ると玄関にあった椅子の背にかけた。
そしてこう言った。
「なんなら全部脱いでくれても俺はかまわんけど?」
妖艶に笑っている彼を見て危機感を抱いた私は逃げようと走り出した。
しかし、すぐに腕を捕まれ、執事用(仁王)の部屋に連れ込まれた。
『なにすんのよ!』
「悪い子はお仕置きしなきゃやのう。」
『っ、』
私をベッドに押し倒すと服を無理矢理脱がす仁王。
冷たい空気に触れた肌が寒いとアピールしていた。
それに加え、仁王はあらわになった胸の突起物を摘んだ。
『ぅんっ!』
「声出したらみんなに聞こえるぜよ?」
『やっ、めなさい!』
「結菜には躾が必要じゃ。」
なんて言いながら私を整える仁王に逆らう力もなかった。
こんなに素直に体が従うようになったのはしつけ係の白石のせいだ。
「…どっちが従者だが。」
『るさいよ!』
「こんな可愛い従者ならもっと目茶苦茶にしてやりたいのう。」
『すでに酷いよ!腰痛いんだから!』
「音を上げるん早いぜよ?俺はまだまだイケる。」
仁王を睨んで布団を被り直した。私にすると仁王の愛情を受けていることはちょっとした迷惑だ。
『仁王のバカ、大嫌い。』
「ほー?そんバカに最中ねだってたんは誰だったかのう?」
『そもそも、婚約者がいるの知ってるでしょ!?』
「執事(俺ら)とセックスしとうなんて婚約者に申し訳が絶たないってか?」
仁王だけじゃない。私を犯す執事は他にもいる。
「そう思うんならクビにすればいいじゃろ?」
『なんでなのよ!私相手じゃなくてもいいでしょ!?』
「他の女とヤれって言うんか?」
仁王は少し考えたような表情をしながら布団に潜り込んできた。そして、私をじっと見つめてから口を開いた。
「この場にいるんが結菜じゃないなんて考えたくないんじゃけど、」
『私よりプロポーションがよくて美人は沢山いるじゃない。』
「結菜が良いん。」
そう言った仁王に背を向けて眠りにつこうとした。すると手が伸びてきて抱き寄せられた。
「きっと、結菜に恋しちゃったん。」
『執事の分際で?』
「そう、執事の分際で。」
仁王はそう言って苦笑した。私は寝返りを打って、仁王の方を向いた。すると優しく髪を撫でてくれた。
『……仁王、』
「なんじゃ?」
『他の人と私ヤってるのに嫌じゃないの?』
「それに答えたら、結菜が苦しむ。じゃき、今はこれでいいん。」
寂しそうに笑うと仁王はまた私の髪を撫でた。気持ち良くて目を閉じた私に仁王は額へ唇を寄せた。
「今、最高に幸せじゃから。なにも言わんで。結菜の可愛い姿も見れたし、思い残すことはなかよ。」
『…大好きだよ仁王。』
「どうも。(大好きね…人に限らず特定のものに使わん言葉じゃ。便利な言葉じゃからこそ胸が痛い。)」
『でも、出て行きたければいつでも出て行きなさい。』
「それはない。」
なんでだろう。
仁王の言葉がこんなに嬉しいなんて。思わず仁王に少しだけ近寄った自分がいた。
「おやすみんしゃい。結菜お嬢様。」
私には自室があるのに時たま仁王の部屋で夜を明かすことがある。
婚約者がいるのに最低な人間なのだ。
そもそも、事の始まりは白石にある。彼が絶対的な割合で悪いと言いたい。
それより――。
もし、あなたたちが執事じゃなければ…どうしていたのかなんて今の私には到底理解出来そうにない。
彼らが私を求める理由も。
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