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4話







真実の愛へ






《奈々視点》


苦しい思いはしたけど、侑士は約束を守り、いつも彼氏を演じてくれた。だから、乗り越えられた。


『ねぇ、侑士。転校したら侑士とは一緒のクラスに二度となれないね。』

「せやなー」

『通信高校行くなら別に東京でなくてもいいんだよね。』

「どこ行くつもりやねん。」

『んー…大阪とか。』

「なんで?」


侑士は不思議そうな顔をして私を見た。

私にすれば景吾と別れたわけだし、父親から跡部家の話しは聞きたくないし、東京を出る親への言い分はある。


『人情の街だから。』

「なんやそれ。」

『侑士みたいな人がいっぱいだから。』

「反対や。」

『なんで?』


侑士は確かに彼氏役を演じてくれる。ただ、たまにそれが演技なのか疑いたくなることがある。


「俺みたいなヤツが居てる、つまり奈々が惚れる要素を持ってるヤツがおるってことやろ?」

『は?』

「奈々が惚れるのは俺だけでええの。」


こんなんだからたまに気になる時がある。侑士は好きな人がいないんだろうかって。


『私には侑士だけです。』

「もちろんや。」


彼女役を演じているとたまにわからなくなる。私が好きなのは誰か。彼氏役が好きなのか、それとも他の誰かか。


『それだけじゃなくて一人暮らしもいいな、なんて思って。』

「妊婦さんがアカン。悪阻酷うなったらどないすんねん。」


侑士は私の体を心配してそう言ってくれた。でも、遠くに行くことにはもう一つ理由があった。


『そしたらさ。侑士だって楽じゃん?』

「なにがや?」

『彼氏しなくて済むし。』

「………」


暗い表情で言ったつもりはなかった。ちゃんと笑えてたと思う。なのに、侑士はその言葉に対してこう言った。


「ええで。親が許したら大阪行っても。」

『ホント!?』

「せやけど条件や。」


私はそう聞いて母親との会話を思い出した。条件なんて、簡単に受け入れるものじゃないことを私は痛感していた。

だから、そう聞いてあまり期待はしていなかった。


「俺と同棲するならええで。」

『……は?』

「一緒に住むん。」

『同棲の意味なんて聞いてない!』

「妊婦になにかあったら俺がなにか出来るやろ?」


なにを考えているのか、なにを言っているのか彼はわかっているのだろうか?


『冗談にならないよ。』

「冗談やないし。」

『……なに考えてんの?』

「今言うたやん。もう一回言おうか?」

『そこまでしてくれなくていいよ!』


学校とか、気持ちとか、親とか、私には解決しなくちゃいけないことは沢山ある。それに侑士は彼氏の振りをするのが約束。そこまでする義務はない。


『行くなら私一人で行く!』

「条件やて言うたやん。」

『侑士にそこまでする義務はない。』

「義務はなくても、権利はある。俺は奈々の彼氏やで?」

『……嘘のね。』


私は彼が頭のいい人間だと忘れていた。それと同時に人情深い人だということも頭になかった。


「嘘でも彼氏って権利はある。嘘の中の彼氏の権利。俺を彼氏に任命した時点であるんや。」

『優しいのね。でも平気、』

「俺が平気ちゃうねんて!」


腕を引かれ、抱き寄せられた。初めて、忍足侑士のにおいと温かさを感じた。

こんな時になにを感じてるんだろう私。


「ついて行かして。」

『……侑士はこの学校で勉強しなよ。』

「嫌や。奈々について行く。」

『子供じゃないんだから!』


ただをこねる子供のような侑士に叱り付ける母親みたいになっていた。私は侑士がここにいなくてはいけないことを知っているから余計かもしれない。

医者を目指すなら名高い氷帝学園は卒業しておくべきだと思った。


『放してよ。』

「放さへん。今放したら…そのままどっか行くんちゃうやろかって不安やねん。」

『私なら…』

「奈々ちゃうくて俺が。」


妊婦を一人に出来ないのはわかる。しかし、今は侑士が一人になれないという。

私には理由がわからなかった。


『なんで侑士が不安なの?』

「やて…奈々。恋人ごっこかホンマもんの恋人かわからんくなってきたんや。」


そう言われて気持ちは理解した。それは私も感じていたことだから。

でも、答えは始めから変わってない。やはり、侑士は偽の彼氏。


『わかってるでしょ?』

「わかってんで?わかってるん。せやけど……あぁ、もう!自分、鈍感すぎや!」


なにかもどかしそうにそう言った侑士に私は再び抱きしめられた。不思議なことに嫌だなんて思わなかった。


『鈍感って言われても、言ってくれないとわかんないし!』

「しゃあないな。俺、奈々が『ちょい待ち!』

「…なんやねん。」

『気持ち悪くなってきた…』

「えらいこっちゃ!」


侑士は私を抱え上げてトイレまで走ってくれた。休み時間中だったため、女子トイレに入れなかったのか男子トイレの個室の洋式トイレに連れて来てくれた。


『っう、…ぇえ。』


戻してしばらくして落ち着いた私を今度は保健室に連れて来てくれた。

侑士はベッドに私を寝かせると傍(かたわ)らに座り、手を握った。そして、空いた手で髪を撫でながらこう言った。


「…ほらな。やっぱり俺がおらなアカンやろ?」

『ホントだね。』

「ついて行ってええやろ?」


侑士は学校のことを心配してないみたいだった。そうでなければこんなことは言わない。


『大好きだよ侑士。』

「知っとんで。…そのうち、本気で愛してるって言わしたるから覚悟しぃや。」

『これは大変。』


私たち、幸せだったね。

だから後悔なんてしたくなかったよ。






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