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act.36『取引』
(こもも視点)


夜、景ちゃんに電話をかけた。

するとどこかイヤそうに返事が聞こえて笑えた。


こももがなぜ彼の電話番号を知ってたかというと、デート中に立ち寄った喫茶店で宍戸くんがトイレに立ったときに調べた。


「(携帯置いていくんだもん。全く不用心だよねー)」


そして現在、デート中に宍戸くんから聞いた話で景ちゃんを揺することにし、決行している。


「なんでその話知ってる?」

「宍戸くんから聞いたー!」

「………宍戸は誰から聞いたんだ?」

「岳人って言ってた。デート前に会ったんだって。」

「(クソッ、岳人め。)」


黙ってる彼にいいなー、とひたすら言ってみた。

なんの話をしているかというと、夏休みに彼らが行くというプライベートビーチの話。


「こももも行きたいー!!」

「あんまり大勢だと世話が疲れる。」

「それは来るな、ってこと?」

「いや……」


言葉を濁すのは断りきれずに困っているとみた。

しかし、こももはそんなところで引き下がらない。


「宍戸くんは行かないって言ってた。」

「宍戸が来るわけない、」

「でも、こももなら説得出来るよ?」

「あん?」


今の反応はかなり早かった。

景ちゃんにしたら宍戸くんは大事なお友達でもあり、自分の恋人のリョウちゃんの飼い主でもあるから特に気にしているはず。

自分を嫌っている宍戸くんは来るはずないと感じている彼にしたら、理由はなんであれ一緒に来るというのだから嬉しいに決まってる。


「だから一緒に行っても良い?」

「……仁王もか?」

「残念ながら雅治はお留守番かな?部活行かないと弦ちゃん(真田)がウルサいだろうし。」

「なら連れてってやる。」

「やった!したら宍戸くんは任せといて?」

「あぁ、頼む。」


宍戸くんを釣るのはなにより簡単だからこももにしたらお安いご用なわけ。


「そういや、今どこから電話かけてる?外か?」

「お友達の家の玄関先ー。電話するのに外に来たの。」

「そうか。また絡まれたら面倒だから早く家の中に入れ。」

「“また”ってなに?」

「(ヤベ、)」

「はは〜ん。まさか宍戸くんとのデート中、こもものストーカーしてたなぁ?景ちゃんったらやだぁ〜」


笑っていると図星だったらしくバカ!、とだけ言われて電話が切れた。


「切られちゃった、」


なんとなく寂しくなり、足早に家の中に戻った。

今日来たのは鳳長太郎くんの従兄弟のお兄さん、鳳佳梨(かり)くんの家。

通称、佳梨にぃ。

雅治とは昔から絡みがあるらしく、こももも人間になってからは仲良くしてもらってる。


「ねぇねぇ、佳梨にぃ?」

「あ、戻ってきた。」

「今日泊まっても良い?」

「うん、この部屋使っていいよ。あ、あまり汚さないように!仁王くんが来た日なんかヒドいんだから。」


念を押されて笑いながら答えた。


「すいません。ちゃんと掃除していきますので。」

「よろしい。じゃあ、おやすみ。亜姫、おいで?」

「亜姫おやすみー!」

「わんわん!」


佳梨にぃが飼ってる犬の亜姫はこももたちの姉妹。

つまり、雅治がリョウちゃんを宍戸くんに押しつけたときにもう一頭はあげると言っていた友人は佳梨にぃだった。

亜姫はリョウちゃんと同じでとてもお利口さん。

それに比べ、こもものしつけは大変だったと雅治は言う。





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