act.35『彼氏候補』
(跡部視点)
ナンパから口論へと発展しかけたその時、宍戸がこももを見つけ、男たちと彼女の間に割って入った。
「俺の彼女、返してくれるか?」
「し、宍戸くん!」
「行くぞこもも。」
こももの腕を掴んで宍戸は男たちを無視して歩きだした。
しばらく我慢していたようだが、限界に達するとこももは宍戸の足を止めさせた。
「宍戸くん、腕が痛い。」
「あぁ、悪い。……じゃなくて!なんで離れてんだよ!!しかもなんで絡まれてんだよ!!」
「だって!宍戸くん歩くの早いの!」
そう言われ、自分の変なヤキモチのせいでこんなことになったことを思い出したのだろう。
宍戸は無言でこももの手を優しく握ると歩きだそうとしたが彼女は動きやしなかった。
「なんで手繋ぐの?」
「……跡部と繋いでたくせに俺は繋いじゃダメなのか?」
「そんなことないけど…」
「友達とは手を繋ぐのに彼氏候補と手を繋ぐのはイヤなのか?」
「そうじゃないって!」
「だったら良いだろ?」
“離れないため”と素直に言えばいいのにと内心思った。
しかし、こももに向けるあの優しい表情がすべてを物語っていた。
「宍戸、おまえ――」
リョウには必要以上近づかないのにこももが相手となると違うんだな?
「彼氏候補さん、今日はどちらへ?」
「こももの行きたい場所。」
「こももは宍戸くんとならどこへでも行きます!」
「バーカ。」
俺は二人を追うことを止め、人混みへ姿を消す背中を見送った。
二人のやりとりを見ているとリョウが見捨てられたのだ実感し、罪悪感に満たされるからだ。
“自分の決定を悔やむ”
“後戻り出来ない”
そう言っていたこももの言葉を先より実感していた。
“リョウは責任もって幸せにする”
決意を新たにするがこももによって巻き起こされた嵐は威力を増し、すべてを崩し去っていくことを俺はまだ知らない。
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