act.34『押しに弱い男』
(跡部視点)
嬉しいのか“景ちゃん景ちゃん”と連呼するこもも。
景吾さんと常にリョウに呼ばれてるせいか、その呼び方はリョウ専用みたいになっている。
「(だからと言って、景吾くんじゃ親近感が湧かねーしな。)」
“景ちゃん”なんて忍足がバカにしながら言うくらいだから真面目に、そして親しみを込めて呼んでくれたことが単純に嬉しかった。
「じゃあ、景ちゃん!こももはデートに行くであります!」
「あぁ、楽しんでこい。」
「ありがとう、景ちゃん♪」
頬にキスをすると逃げるように走っていった。
「やり逃げ……」
そう俺は呟いた。
ふとこももと宍戸が気になり、尾行することにした。
俺たちのやりとりをまさか宍戸が見ているなんて思いにも寄らなかった。
これはこももから後に電話がかかってきて話を聞いて知ったことだ。
俺の電話番号をどこから入手したかは怖くて聞けなかったが。
「なんでそんなに怒ってるの?」
「別に?」
「まさかさっきの見てたの?」
「そのまさかだ。」
そう言い、歩く速度を落とすこともせず、こももを置いていく宍戸。
それに必死で付いていくこもも。
「そっか……ヤキモチ?」
「絶対違う、」
「なによー…冗談でも言ってくれたっていいのにー!!」
「あのなぁ…」
「別に景ちゃんに浮気したつもりはないよ?」
そう言われ、宍戸は立ち止まると反論として強め口調で言った。
「“寂しいなら一緒にいてあげる。おままごとみたいな感覚でこももと恋愛してみない?どうせ、ペットは帰ってこないんだし?”とか言ってたのは誰だよ!?」
勢い良く振り向いた宍戸は肩の力が抜けたように見えた。
そこにはこももがいなかったからだ。
「こもものやつ、どこ行きやがったんだよ…はぁ、」
宍戸は軽くため息を吐くと今歩いてきた道を戻り始めた。
姿を消したこももはと言うと、歩いていた時点で宍戸との距離を徐々に作ることを許してしまい、最終的に奴を見失った。
慌てて宍戸を探しているところを男たちに捕まえられ、絡まれていた。
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