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act.33『唯一の理解者』
(跡部視点)


こう感じたのは一つの罠だったのかもしれない。


「あ、電車来たー」


俺は乗り慣れない電車を前に戸惑っていた。

するとこももが手を握って引っ張ってきた。


「乗り遅れちゃうでしょ?」

「あ、あぁ。」


車内に乗り込むと手は放された。

当たり前だが常に手を繋ぐリョウとは違うと思った。


「(なんでリョウと比べてんだ?)」


自分を少し情けなく思い、俯いた。

その時、こももを見る男の視線が気になった。

美人、軽そう、気が強そう、

そういう意見が多数聞こえてきた。


「おい、」

「どうしたの?」


こももの手を握り、俺の方に引き寄せれば“連れがいた”と残念そうに男たちは彼女を見ていた。


「なんでもない、」


そう言い、俺が見聞きさた他のことはなにも言わなかった。

こももが見た目だけで判断されてなぜか悔しかった。

頬を叩いただけで怯える、そんな弱い一面もあるというのに。



結局、人目が気になり、電車を降りて駅を出ても手は繋いだままだった。


「宍戸と駅で待ち合わせなんだろ?」

「まだ少し時間あるけどね?」

「そうか。じゃあ、俺は帰る。」

「うん。」


そう言い出したがなかなか手を放せないでいた。

言いたいことがあったのだ。


「……宍戸を頼む、」


そう言うと優しく微笑んでこももは言った。


「本当はそんなこと言うの悔しいんじゃない?」


こももは近くにいて俺たちを見ていたわけじゃないのになぜこうも人の気持ちを理解出来るんだ。

まるですべてを知っているよう。


「大切な仲間を自身の手で苦しめてること。その理由は結局、自分が一番可愛いせいだと認めたくないんじゃない?」

「なんでわかるんだよ、バカヤロー…」


こももを抱きしめている自分がいた。

誰も口にはしてくれなかったこと。

俺を責める前に理解してくれたことが嬉しかった。

俺を傷つけるかもしれないと怖がりもせずに立ち向かってくれた彼女を一瞬でも頼りたいと思った自分は愚かだった。

そのときは嬉しくてつい抱きしめてしまったがリョウではないことを思い出してすぐに腕の力を緩めた。

そして誤魔化すように口を開いた。


「……ありがとうな、こもも。」


キョトンとしていたこももはなんだか可愛かった。

犬で言えば思考を巡らせ、尻尾がピンと伸びている状態だろう。

こももは満面の笑みを浮かべるや飛びついてきた。


「跡部くんが始めてこももの名前呼んでくれたぁ!」


そんなことで喜ぶ彼女を見て、自分は純粋なこももに比べると贅沢なのかもしれない。


「そんなに嬉しいのか?」

「うん!だって今まで“おまえ”とか“おい”とか?呼ばれた気がしなかったし。」

「そんなこと言い出したらこももなんか俺を呼ぶとき苗字で君付けじゃねぇか。呼ばれた気がしない。」


そう言い返せば首を傾げ、口を開いた。


「じゃあ〜…景ちゃん?」

「……………」

「だってー!」

「それでいい。」

「え?」

「それでいい、つったんだよ。」

「……イヤじゃないの?」

「あぁ、」

「よかった!」


安心しつつも満足げな笑顔を浮かべた彼女の表情はやはりリョウとは異なるものだった。





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