act.31『ごめんと言えず』
(跡部視点)
あれからこももがどうなったか気になり、土曜日に立海大の仁王に会いに行くことにした。
リョウには適当に理由をつけて宍戸と部活に行かせ、俺は神奈川まで一人で来た。
周りは俺を見るなり氷帝の跡部だ、と言い騒ぎ立てた。
仁王がテニスコートにいるのは間違いないと思い、真っ先にそこへ向かった。
そこには帽子を被り、部員を指導している真田の姿があった。
「真田、」
「ん?……氷帝の跡部、」
俺を見るなり警戒する真田は冷たく言い放った。
「なにをしにきた?」
「仁王に用事があってな。」
「仁王に…?」
「で、アイツは?」
そう言うと背後から仁王の声が聞こえた。
「俺になんか用事か?」
真田は練習になるたけ早く戻るよう仁王に言い渡すと去っていった。
「……なぁ、仁王。アイツは?」
「アイツ?あぁ、こももか?あそこでみんなの洗濯もん干しとうよ。」
「洗濯物?いつからマネージャーを雇うようになったんだ?」
「そこらへんの女よりずっと働きもんじゃけ。なにより幸村が気に入ったしな。」
部室の外でせっせと洗濯物を干している姿を見て、働き者と称されていることが理解できた。
「叩いたんじゃて?」
「!」
「その場におらんかったから状況はわからんが、宍戸が怒っとった。」
「………悪いと思ってる。」
「悪いで済ませられたら警察はいらんよ?」
「だから今日、」
「わかっちょる。こももに話しかけてやりんしゃい。」
そう言うと仁王は去っていった。
気持ちを落ち着かせて静かにこももの元へ向かい歩きだした。
砂を踏みにじる足音を聞いて作業しながらこももは口を開いた。
「聞いて雅治〜?今宍戸くんからメールが来てさ?」
「……へー?」
俺の声を聞き、慌てて振り返って俺を見たその顔色は蒼白になった。
「あ、跡部くん!?」
「よぉ、」
「……遊びに来たの?」
再び作業に取りかかりながらそう質問した。
「頬の具合は…どうだ?」
「……平気だよ。」
「ごめんな。叩くつもりはなかったんだ。」
「気にしてないから!」
逃げるように仕事を投げ出して走り出した。
すぐにこももの腕を掴み、抱き寄せると暴れ始めた。
「…は、なして!」
「そう怒るなよ。本当に悪かったと思ってる。」
あの時に叩いた方の頬を優しく撫でると大人しくなった。
「許してくれるか?」
「……うん!」
本当に許してくれたみたいで、こももから俺に抱きついてきた。
基本は犬だから単純なんだろう。
一度怖いと思ったものは苦手意識を持つのだろう。
しかし、俺に対する苦手意識はなくなったらしい。
「ところでさっきの話だが、宍戸からメールが来たのか?」
「あ、うん。部活終わったらデートしようって約束なの。」
「宍戸と付き合ってるのか?」
「ううん?ただこももがアタックしてるだけ。満更でもないみたいだけどね?」
そう笑いながら言う彼女の言葉が胸に突き刺さった。
宍戸がこももに流れたらリョウは本当に見放されたことになる。
「やっぱ少しはショック?リョウちゃんには跡部くんがいるから宍戸は余るじゃない?だからこももがもらっといてあげる。」
俺だけを見る良い機会になるとは思うがどこか心苦しかった。
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