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act.29『小さな詐欺師の罠』
(跡部視点)


本屋に行ったあの日からリョウの様子がおかしかった。

話しかけても上の空だし、今も歩いていても壁に頭をぶつけたところだった。


「大丈夫かいな(汗)」

「リョウ、なんかあったのか?」

「俺にもよくわからない。こないだから様子がおかしくて。」


家に遊びに来ていた忍足と岳人が心配そうにリョウを見ていた。

二人に心配をかけたくないから本屋でリョウが見たことは言わなかった。


リョウが自室を離れてからそんなに時間が経たないうちに戻って来ると俺の手を引っ張ってきた。


『景吾さん…ちょっと来て?』

「あぁ。悪いな、適当にしてろ。」

「おかまいなく〜!」


ソファーでだらけてる岳人と忍足を部屋に置いて俺はリョウにある部屋まで連れてこられた。


「真っ暗じゃねえかよ。カーテンくらい開けろ。」

『……………景吾さん、』

「あ?……リョウ!?」


ベッドに押し倒され、なぜか上にはリョウがいる。

驚いている俺に暇なく唇を貪るようにキスをしてくる。

コイツ、こんな風にキスが出来たか?


「ん、…ッは…リョウ!」

『………景吾…さん、』

「いきなり…どうした!?」

『寂しいの…なんかわからないけど寂しいの!』


抱きついてきたリョウを抱きしめ返したとき、なんとなく違和感を感じた。


「………リョウ?」

『………あはは。香りまではどうにもならないってわけね、』


そう呟くと俺の腕の中からピョンと飛び出したリョウはすぐに走り出した。

逃がすわけにはいかない、と感じた俺は扉を開けて部屋から出ようとしていた彼女を捕まえた。

扉を背に彼女は諦めたように言う。


『脱出失敗。』

「……おまえは誰だ?」

『確かめれば?』


そう挑戦的に言うリョウは手探りで部屋の電気をつけた。

一瞬、眩しさに目が眩(くら)むがすぐになれると俯いていた彼女の顎を持ち上げた。

決して優勢とは言えぬと言うのに彼女は勝ち誇った顔をしており、口元は笑っている。

彼女の持つ、その強い眼差しはリョウにはないものだった。


『確かめる気がないならイヤでも確かめさせてあげる。』

「やめろ、」


着ていた服を脱ごうとする彼女をすぐに制止させた。

すると彼女はバカにしたように笑い始めた。


『……ブッ、あはは、跡部くんって聞いてたより随分とリョウちゃんを大事にしてるんだね?』

「……………」

『まだ抱いてないんだ?意外と純情ー?』

「ッ、おまえ!」

『!?』


――パシン!


つい、手をあげてしまった。

叩いた瞬間、勢いでよろけた彼女は髪を乱し、その頬が赤くなるのを許した。


「どこいきやがったんだ?こももー?」


その時、タイミングよくドアを開けた宍戸に彼女は倒れかかり、なにがあったのかわからずキョトンとして俺を見ていた。


「なにしてたんだよ?カーテンも開けずに。」

「……宍戸、そいつは誰だ?」

「へ?あ……」


宍戸は彼女を見てなんとなく事を察したらしく、彼女を叱り始めた。


「またやったのか!!」

「だって、」

「跡部相手に……平気だったか?」

「……うん!」


安心したのか、ふと表情を緩めた宍戸に驚いた。

相手は見た目はリョウだからだ。





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