act.4『スタート』
(宍戸視点)
数ヶ月後、リョウの体調が良くなった頃には俺は高等部3年になっていた。
「見に来いよ!すんげぇ可愛いの!」
「へぇ〜?いつの間に犬なんか?」
「マンションなのにバレそうだC。」
「なぜか管理人さん許してくれたんだよ。本来はダメなんだけど、って言いながら。」
珍しく部活も無く、バイトも無い日、みんなにリョウを見てもらおうと思った。
「宍戸となかなか一緒に遊ぶ機会なかったし。丁度いいな!」
「ホンマやわ。」
「「おじゃましまーす。」」
玄関で脱ぎ捨てた岳人とジローの靴を忍足がきれいに並べてから部屋に入った。
「リョウはどこだよ!」
「早く見たいC!」
「待てよ、リョウ?」
トテテと軽やかな足並みで玄関に来るリョウ。
大勢の人を見て少し驚いていたようだがあまり動じず、尻尾を振っていた。
「ほぅ?こいつが宍戸の犬か。なかなか美人な顔立ちじゃねぇか。」
「サンキュー。」
この時、なぜ気づかなかったんだろう。
久しぶりに広い家が狭く感じて俺は舞い上がってた。
「(良い実験台がいるじゃねぇかよ。)」
アイツの、跡部の妖しく笑う表情に――
「コイツが俺のペットのリョウ。」
「メス?」
岳人がリョウの尻尾を持って確認している。
リョウは挨拶されているんだと思ったのか(犬はそう挨拶する)尻尾を振る。
「岳人やめろよー!」
「せや。もしその子がレディなら失礼やで?」
「はいはい(笑)」
「それでメスなんですか?」
そう尋ねてくると長太郎はリョウの頭を恐る恐る撫でていた。
長太郎は家で猫を飼っているのだが、猫を飼う人にすると犬歯が怖いらしい。
リョウは噛みついたりしないだけどな?
頭を撫でられて尻尾を振りながら頭を下げたリョウを見て安心したのか、長太郎の顔が綻んでいた。
「(メスか、ますますちょうど良いな。)」
「……跡部ぇ、顔が気持ち悪いC。」
「ああん?!」
「なに考えてたんだよ?エッチぃこと?」
「バカ、そんなんじゃねぇよ。」
楽しそうにケラケラ笑うジローが楽しそうに見えたのか、自分も仲間に入れてもらおうとして近づいた。
しかし、ただひたすら話を聞いているだけの若と樺地に気づき、向きを変えた。
「「………………」」
二人の元に行くとリョウはずっと二人を見つめていた。
微動だにしない二人と一匹。
「見てみて!なんか笑えるC!」
「なにやってんだアイツら。」
リョウはゆっくり尻尾を振り始め、頭を下げて若と樺地に近づいた。
若と樺地が顔を見合わせ、リョウに手を伸ばした。
頭を優しく撫でると尻尾の動きが増す。
差し出された手をチロチロと舐める姿に樺地もどこか嬉しそうにしていた。
「お?宍戸ー、回覧版が来たみたいやで?」
「あ、持ってかねぇと……」
ポストに差し込まれた回覧版を見た忍足にそう言われ、俺は回覧版を持って外へ出た。
「ふん、ようやく邪魔者がいなくなったな。」
「な、なにするつもりなん?」
「跡部が怖ぇ〜…」
ジローと岳人が長太郎の背中に隠れ、跡部を見ていた。
「リョウ、こっちに来いよ。」
名前を呼ばれたと喜ぶリョウは危険が目の前にあることなど知りもしなかっただろう。
「いい子だ。」
頭を撫でられ、本人は喜んでいた。
跡部は自分の左手から香る匂いに興味をそそられ、尻尾の動きが止まるのを見るとニヤリと笑った。
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