act.26『お邪魔虫岳人』
(リョウ視点)
朝、私は目が覚めて意識がはっきりした頃に左右を確認した。
右を見ると、景吾さんがベッドに寝ころび、雑誌を見ていた。
「ん?起きたのか?」
『おはよう、景吾さん。』
「あぁ、おはよう。」
ふと優しく微笑む景吾さんを見て安心した。
満足した私は左側も確認した。
左側には宍戸が寝ているはずだったけど、その姿はすでになかった。
『……景吾さん、宍戸は?』
「あ?宍戸なら、さっきバカデカい音で自分の携帯が鳴って飛び起きてたぜ?」
『携帯鳴ったの?』
「あれに気づかなかったなんて熟睡してたんだな?」
のどを鳴らしながら笑う景吾さんはさぞかし楽しそうだった。
「それで慌てて身支度して出ていったぜ?」
『そうなんだ。』
どこへ誰と出かけたなんてことは気にならなかった。
宍戸が誰かと出かけるにしても、相手は決まって“長太郎”か“ペテン師仁王”だったから。
『じゃあ、宍戸は部活行かないのかな?』
「部活…?」
疑問符を浮かべている景吾さんを見て、私もつられて疑問符を浮かべ、首を傾けた。
「今日は第二土曜日だぜ?」
『……あ、本当だ。』
ドレッサーの鏡前にある卓上カレンダーを見て確認した。
犬には曜日の感覚というものがあまりないから恥ずかしいものだわ。
「部活も休みだから羽伸ばしに買い物に行かないか?」
『なにか必要なの?』
「特にはない。でも家の中にいても暇だろ?食事をとったら行こうぜ?」
気を遣って、景吾さんは私を外へ連れ出してくれた。
この日、日差しが暖かいものから暑いものへと変わってきたことを肌で感じられた。
「車に気をつけろよ?」
『あ、はい…』
そうボケッとしてた私に注意を促す景吾さんはすごく紳士的だった。
自分が車道に近いところを歩くことにより、私が安全な場所を歩けていたから。
『優しいね?わざわざ内側を歩かせてくれるなんて。』
「おまえが大事だから当たり前だろ。」
感謝しようと思って言ったのに頭にまで熱くなったものが登る感覚に陥り、それどころではなくなった。
「夏は海に連れてってやる。」
『海?』
「プライベートビーチがあるから、そこにな?」
『楽しみにしてる!』
見たことがない世界へ連れていってもらえる。
これほどわくわくすることはない。
「へ〜?プライベートビーチね?」
『あ、岳人さん。』
「どっから湧いて来やがった?」
明らかに嫌そうな表情をする景吾さんを見てお猿さんみたいに怒り出す岳人さん。
「失礼なヤツだな!悪かったな、デートの邪魔して。」
「わかってんならさっさと消えろ。」
「そうだな〜?早く夏休みの計画をみんなに伝えないとだし?」
「夏休みの計画だと…?」
「だって、海行くんだろ?」
ニコニコと輝かしい笑顔を向けられ、今にも怒りが爆発しそうな景吾さんを私は見ているしか出来なかった。
「誰がおまえらを海に連れてくって言ったよ。」
「……リョウ?俺らはお邪魔虫?」
瞳を潤ませ、私を見てくる岳人さんと目で彼の返答を断るようにと訴えてくる景吾さん。
しかし、どうも岳人さんを断るのは可哀想に思えたのだ。
『お邪魔虫なわけないじゃないですか。』
そう答えると飛び跳ねながら喜ぶ岳人さんとガクリとうなだれた景吾さんがいる。
『みんなもいたらダメ?』
そう顔色をうかがいながら景吾さんに言うとやれやれと言った風に私の頭を撫でた。
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