act.25『そっくりさん』
(宍戸視点)
飼い主を擁護(フォロー)するためにこももは言った。
「あー…これは雅治の趣味なの(笑)」
「そんな服装よく出来るな?」
「別に平気だけど?」
「リョウって普段こんな格好と違うん?」
「違うな。もっとナチュラルな服だよ。コイツはシャープ過ぎるだろ。」
呆れながらそう言うと仁王はこももを俺に差し出した。
「まぁ、それは置いといて〜…折角じゃけ。抱きしめてみんしゃい?」
「え、いや、いい!いいってば!」
「そんな遠慮しなぁいv」
ギュッとこももに抱きつかれ、俺は完全に身動き取れず固まった。
「気持ち良いやろ?」
「……気持ち…良い…」
肌が柔らかく、フニャフニャした感じで腕の中にすっぽり収まるサイズ。
跡部はいつもこの感覚を味わっていたのだろうか、と自然に考え始めた。
「胸でも揉んでみればどうなん?」
「バカ!んなことするかよ!!」
「別に揉んでくれてもいいよ?」
「あ、あのなぁ…こもも?そういうことを人前で言うなよ?」
「ふふ、はぁーい。」
自分の容姿など犬は気にしたりしないだろうから周りの視線は気にならないのだろう。
だとしても、恥を知らなさすぎだ。
その場にいる俺の方が恥ずかしかった。
「ねぇ、宍戸くん?」
見上げてくるこももは上目遣いで――どうしたらいいかわからず、俺は顔を赤らめたまま困っていた。
「な、なんだよ?」
「今度デートしよ?」
「……は?」
「リョウちゃんをエスコートする練習だよ。」
「はぁ…つか、んな練習しなくていいっつの!」
こんな風に拒否するものの、
「まぁ、いいじゃない?仲良くしよ?」
なんて首を傾げて言うもんだから俺は仕方なく承諾してしまうのだ。
「じゃあ、今度ね?あ、雅治に携帯持たされてるの!アド交換しよ?」
「別に良いけど…仁王、お前こももに至れり尽くせりだな?」
「そうか?」
携帯を持たせてるのは跡部も同じだが、仁王がここまでするなんてな。
跡部は金に余裕があるからわかるけど。
「金なんか母親の懐にわんさかあるんよ。あの人、父親より稼ぐんじゃもん。」
「雅治のママに化粧品なんかは提供してもらってるのv」
「そういや、お前んちの母さんって化粧品会社の社長さんだもんな。」
良く考えたら、仁王は金がないわけではなかった。
「仁王でもわからねぇことってあんだな?」
アドレスを交換し終わったらしく、こももは俺に携帯を渡した。
「じゃあ、デートの日程は後日v」
「俺はデートするなんて一言も……!」
言いかけてこももを見ると大きな瞳が揺れていてギョッとした。
なにも泣かなくても良いのに。
「ひど…いよ、しし…どくん。」
「あーあ、泣かしたー…」
わざとらしく隣で言う仁王がさらに俺を追い込む。
目の前で泣くこももを見ていると胸が痛み、慌てて慰めるように声をかけた。
「わかった、」
ため息を吐きながら彼女の髪を撫でると彼女は涙を拭い、嬉しそうに頬を緩ませ笑った。
「じゃあ、約束ね?」
「…気が向いたらな。」
「……それって明日?」
「さぁな。こももが良い子にしてたらじゃね?」
なんて冗談混じりに言ったが彼女はその言葉を真に受けたのだった。
「じゃあ、良い子にしてるよ!」
太陽のように眩しい笑顔を向けられた俺はどうしたら良いかわからず、たじろいでしまった。
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