act.3『亮とリョウ』 (宍戸視点) その時は本当に仁王の言葉にびっくりして無駄に瞬きをした。 「おいおい、俺んちマンションだぜ!?」 「しつけすればそんな吠えんと思うん。それに独りじゃなくなるんは良いと思わん?」 単純にも口車に乗せられ、その言葉ですっかりその気になってしまった。 仁王とその場で子犬を見て悩んだ。 「おまえは二匹連れて帰るんだな?」 「飼っても良いって友人がおるん。」 「そっか……じゃあ、俺はコイツもらって帰るな?」 丸くなっていた子犬を抱き上げ、懐に入れた。 体温はまだそんなに奪われてはいない。 俺は今なら間に合うと思い、仁王とその場で別れ、マンションへ急いだ。 それが高等部2年の冬だった。 犬はその時点で生後2ヶ月くらい。 世話が焼けそうだが、無音の世界から救われるならそれで良いと思った。 家に帰れば無機質な音しかしない。 孤独と戦わねばならなかった。 「暖めねぇとな。」 まず、子犬を暖房のそばに置いて暖めた。 子犬の体温が完全に戻る頃、朝日が登り始めていた。 俺は子犬を見張りつつ、ソファー(跡部がくれた)で仮眠していた。 『………くーん、』 その寂しげな声を夢の中でも聞いた。 行ったり来たり、床を歩く音も聞こえた。 それに気づいてようやく目が覚め、身を起こした。 「犬……?」 『!』 俺にびっくりしたのか、とっさに身を隠す犬。 しばらく人には慣れそうにない、と思ったときだ。 『ヘッ、ヘッ、ヘッ、』 ただ独りが怖かったんだ、と感じた。 すぐに俺の元に駆け寄り、猫のように足下にすり寄った。 「寂しいな……」 『くぅ〜ん、』 「でも、これからは俺がいるぜ……リョウ。」 気がつくと涙を流している自分がいた。 自分に言い聞かせるように子犬に声をかけた。 怖かった。 家族と死別した日以来、俺は毎日孤独さと戦ってきた。 だから、小さくても家族ができたなら俺は独りじゃなくなる。 子犬がリョウという名前なのはそのため。 自分に言い聞かせるように自分の名前を呼んだのが始まりだった。 → |