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act.20『元親友』
(跡部視点)


朝のやりとりから、かれこれ4時間は経つ。

もう昼休みになるが仁王は宍戸の制服を着て紛れ込んでいたためか、教師が誰一人として気づかないのも不思議だ。

本人は自分の騙しっぷりに満足しているみたいだが。


「(宍戸の制服を着るのは良いがなんで誰も気づかない?)」


さらに、宍戸の代わりに果たした慰謝料の請求もしっかりと受け取り、ご機嫌だった。

たまたまうちの研究グループからもらったサンプルの最後を仁王に渡した。

何をするつもりか知らないが、


「変なことはしないぜよ。」


なんて言っていたが、ペテン師の異名を持つヤツの言葉なんか信用できない。


「なんや跡部、眉間にシワ寄せて何考えてるん?」

「なんでもねぇ、」

「そうなんか。…そういや、リョウと仁王ってえらい仲良しさんやねんな?」

「…なんか知らねぇけどな?」


しばらく、リョウと仁王がじゃれてるのを眺めていると不意に忍足が口を開いた。


「ところで、仁王となんかあったん?」

「あん?なんでだ?」

「朝、仁王に睨まれとったやん?」

「……あぁ、」


忍足には隠しても無駄なことはよくわかってる。

宍戸のことを思う仁王からの痛い言葉を思い出し、顔を歪めてしまった俺を見てすぐに言葉を繋ぐ忍足。


「言いたくなかったら言わんでええわ。でも一人で悩むなや?」

「……余計なお世話だ。」


俺は追い払うように忍足に言った。

アイツはヘコタレねぇから、可愛くないことを言っても理解してくれる。

宍戸とは違う。


「(宍戸みたいな、あぁいうのを純粋って言うんだろうな……)」


心中で呟き、ため息をついて俯いた。

するとなにかが近づいてきた。


『……大丈夫?』


声を聞き、リョウだとすぐにわかった。

心配してくれたのが嬉しかったが、心配すべきなのは俺じゃなくて宍戸なのに、なんて思う俺もいた。


「平気だ。少し考え事してただけだ。」

『それならよかった。…あ、仁王さんが帰るって言ってるの。』

「あん?」


顔を上げ、リョウが指さす方向を見ればすでに仁王は小さくなっていた。

遠くから手をヒラヒラと揺らす仁王を見て一言言う。


「声かけてから帰れ、バカ。」


ニッと笑うと向きを変えて歩きだした仁王に駆け寄る宍戸。

どこから仁王の姿を見たのか知らないが…


「メール見た。帰るのか?」

「用事が出来たんよ。なん?まさか寂しいんか?」

「バッカヤロー!んなわけあるか!!」

「はは、わかっとうよ。また会いにきちゃるし。」

「あぁ、わかった。」

「なんかあったら遠慮せんと言いんしゃい?」

「サンキュー、」


遠くから見てると思う。

宍戸の隣で笑っているのは俺、深刻な顔をする宍戸の横で腕組みしながら話を聞いてやるのは俺だったはずなのに――と。


「今更、無い物ねだりなんてみっともねぇよな。」


そう呟き、空を見上げた。

寂しくも、その声は誰にも届くことはなかった。


“親友を傷つけた苦しみを償え”


自分自身の良心がそう言うのだった。

その言葉から解放される日は来ないとわかっている。

でも、せめてアイツだけはもう苦しませたくない。

それは元親友の願いであるがきっと叶うことなどないだろう。


「全く、残酷だな…」





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