act.19『まいたものを刈り取る』
(跡部視点)
「早ようよこしんしゃい?」
「ッ、」
今、俺様の目の前には仁王がいて、左手を差し出している。
元を辿ると悪いのは俺かもしれないが。なぜこんな展開になったかというと――
「宍戸がこんな展開に満足するわけないじゃろ、」
「……慰謝料ってやつか?」
「わかっちょるんならさっさと渡せばいいん。」
俺を責める仁王に仕方なく胸ポケットに入っていた小袋を渡す羽目になった。
リョウには宍戸が必要なんだ、とよくわかった。
だから宍戸と話をしようと思ったのにアイツは仁王を連れていた。
「なんで立海の仁王がいるんだ。」
「あぁ、ちょいと見学?」
「なんのだよ!!」
「見学言うより、野次馬に近いかのう?」
仁王は笑いながら俺の後ろにいるリョウを見ようとする。
なにか危険を感じ、リョウを見せまいと俺は抵抗した。
「リョウ?仁王さんじゃよ?」
『に、お…さん?』
内心、自分でさん付けするなんて気持ち悪いと悪態をつく。
しかし、名前に反応してリョウは俺の陰から顔を出した。
「へー…ずいぶん美人やのう。」
「やらねぇからな!」
「……おまえさんのやなかろうに、」
仁王にそう言われ、カッとなって胸ぐらを掴んだ。
「なんよ?」
「……チッ、」
そのやりとりを見てか、宍戸はあからさまなため息を吐いてから口を開いた。
「仁王、俺先に行くわ。」
「はいはい、」
宍戸がいなくなると仁王の目つきが変わった。
その時、タイミングが良いのか悪いのかわからないがリョウに持たせていた携帯が鳴り響いた。
携帯のボタンをあたふたしながら、あれやこれやと押している。
「リョウ、このボタンだ。」
『あ、はい……』
電話の受話器を耳に当てさせてやると“もしもし?”と声が漏れて聞こえた。
『景吾さん、聞こえた!』
「電話は遠くにいても話ができる機械なんだぜ?」
『この声は忍足さんだ!』
「当たりや、ようわかったな?」
『忍足さん、今どこにいるんですか?』
「後ろや、」
『ん?』
「おはようさん?」
『あ、おはようございます!!』
忍足に頭を撫でられると嬉しそうに微笑むリョウ。
チラッと俺たちを見て忍足がリョウを連れていこうとする。
「教室に先に行かん?」
『え、でも…景吾さんが、』
「平気やて、仁王がおんねんもん。」
そう説得して連れていった。
しかし、仁王だから危ないのをわかっていない。
「二人になったのう?」
「おまえが言うと俺の身が危ない感じがする。」
「男を襲ったりせんよ。」
そう真面目に話をするがなんか怖い。
「で?俺様になんの用だ。」
「わかっとうなら話は早いなり。」
「……宍戸のことか?」
「プリッ。なにかしてやりたいもんな。あの日から俺は宍戸の親友なん。」
「ッ、」
唇を噛みしめた。
宍戸の親友は俺たちだと思っていたのに一連の事件で事態は急変したのだ。
あの日、というのは恐らく仁王が家族を失った宍戸に同情した日だ。
「なにするつもりだ?」
「まだこれからのお楽しみ。奪われたんじゃから奪い返されても文句は言えんからな。」
なにを根拠にそう言ったのかわからないが、仁王は次に左手を出してきた。
そして冒頭に至る。
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