act.16『涙のワケ』
(跡部視点)
不謹慎にも茶色、いやゴールドとも言える髪を靡かせる彼女に胸が熱くなる感覚を覚える。
「リョウ、まったねー!」
「リョウさん、さようなら。」
「また明日な!」
呼び止められて振り返ればみんながリョウに手を振っていた。
『はい、また明日!』
リョウはまたみんなに会えるとわかり、嬉しそうに笑って返事をし、俺の元に着た。
「ほな、跡部。頑張りぃや?」
「余計なお世話だアホ。」
強がっていった言葉も、忍足の前じゃ意味をなさない。
氷帝のくせ者と呼ばれる男なだけある。
俺の内面まで察しやがる。
「リョウ、また明日会おうな?」
『はい。忍足さん、今日はありがとうございました。』
忍足に見守られる中、俺はリョウの手を引き、歩き始めた。
時たまリョウが振り返っては手を振っているのが視界に入る。
忍足は俺たちの姿が見えなくなるまで見送ってくれていたのだとわかると余計に振り向けなかった。
リョウを連れて帰ると見たこともないであろう家の中の装飾に興味津々と言わんばかりにキョロキョロと見渡す。
今まではモノクロで見えていたのに急に鮮やかな装飾を見たのだから余計だろう。
「こっちだ。」
『あ、はい…』
彼女を俺の自室に案内した。
服を手渡し、部屋を出たんだが一向に呼ばれない。
「リョウ、着れたか?」
そうドア越しに声をかけるが返事がない。
服を着るのに苦戦しているのかもしれないと不安になり、俺は自室の扉を少し開け、中の様子を見た。
「あ?……寝てやがる。」
制服を着たまま、ベッドの上でリョウは眠りこけていた。
初めて経験した学校生活で疲れたのかもしれない。
なんて考えて、俺はリョウが着ていたパンツ以外の服を脱がした。
白く柔らかいい肌。
ふっくらとした胸。
細くスラッと延びた手足。
少しの風で動く金色の長い髪。
別に女になりたいわけじゃないが、すべてが羨ましく思えた。
「たく、無防備なヤツ…襲われても文句なんか言えねぇよ。」
パジャマを着せ、布団の中に入れてやった。
「今日は休め、」
そう寝ているリョウに伝え、髪にキスを落として部屋を出た。
見ているだけでいい。
ガラスケースに入れて、なにかの美術品のようにしてしまいたい。
それが正直な気持ちだった。
俺は自分が布団に入るまでの時間、やるべきことを済ました。
シャワーを浴びて、食事をとり、学校の委員会の資料をまとめると程良い時間になる。
「……さて、寝るか。」
首を右へ左へ傾ければパキッパキッと音がし、疲れがドッと押し寄せた。
早くベッドに横たわろうと自室に急いで入ってすぐに気づいた。
声を殺して泣いているであろうリョウの存在に。
「リョウ、どうした?」
『ッ、…ひっ…く…ッく、』
「泣いてちゃわかんねぇよ。」
『……ない、宍戸が…いな、いの…』
今まで隣にいたはずの宍戸がいないために寂しくて泣いていたリョウ。
彼女の言葉を聞き、言うまでもないが俺は胸を痛めた。
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