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act.14『犬に恋をする』
(宍戸視点)


授業中の跡部の大胆な宣言。

俺はそれが理解できなくて頭に疑問符を浮かべた。


「だって犬だぜ!?」

「今は立派な人間だ。」

「だとしても犬だったのに恋愛感情を持てるのか!?」

「自信持って言うな。リョウはそこら辺の女どもよりずっといい人間になる。」

「あーはいはい。二人とも喧嘩はやめへん?」


忍足が俺たちを仲介すると跡部が舌打ちして顔を背けた。

すぐにリョウに声をかけ、涙を拭っていた。

正直、跡部がなにを考えてるかわからなかった。


「(待てよ?したら俺これからどうしたらいいわけ?)」


犬だったヤツが人間になっていて、そいつと暮らせ――なんていう方がおかしい。

リョウと生活するなんて出来ない。

彼女さえ出来たことがない俺だから女の扱いがよくわからない。

生きてた頃、母さんと接してはいたけど女だと思ったことはあまりない。


「(なんて言ったら母さん、怒るよな…)」


ふと思い出す母の面影。

しかし、遠い記憶を引っ張りだしたためにその輪郭はぼやけていた。

だから、急に襲ってきた孤独感に身を震わせた。


「(リョウがいなくなったら俺――また独り?)」


人間のリョウを受け入れられないと言えば必ず跡部がリョウを引き取るだろう。

そうすると俺はまた独りになる。





翌時間、先の授業中の口論を聞きつけた岳人がBクラスから俺の元に来た。


「宍戸、宣戦布告されてたな?」

「あぁ。でも、俺には関係ねぇよ。」

「だっておまえの犬じゃん?」

「ふん、あれのどこが犬だよ。」


岳人はただ俺に気を遣って口を開いた。


「跡部だってさ?きっとおまえが寂しくないようにって人間にしたんだよ。」

「それが余計だっつってんだよ。」


俺の声が耳に入ったのか、跡部が俺を睨んでいた。

自然と睨み返すと視線の間に岳人が教科書を挟む。


「はいはい、睨まない!」

「……おい、跡部。」

「宍戸!跡部に絡むなよー(汗)」


いつも以上に声も低く、冷たく言い放った。


「リョウはおまえが世話しろよ。」

「ふん、言われなくてもそのつもりだ。飼い主の務めも全うできねぇヤツにリョウを任せられるかよ。」

「ふん、言われなくてもそのつもりだ。飼い主の務めも全うできねぇヤツにリョウを任せられるかよ。」

「テメェ!」

「だからやめろってばぁ!」


昔から跡部には敵対心があったが今は違う。

本当は俺、跡部が嫌いだったんだ――と気づく。


「おまえなんか嫌いだ!」

「ガキくせぇこと言ってんなよ。」

「チッ、もういい!」


八つ当たりで近くの机を蹴り飛ばす。

机の中身が散らばるとすぐに岳人が拾っていた。


「あーもう!片づけんの誰だと思ってんだよー」


文句言いながらも岳人は拾ってくれたのに礼を言う余裕なんかなかった。

跡部と同じ教室にいたくなくて廊下に出た。


「宍戸、授業始まるぜ!?」

「フケんだよ!」


心配してくれる岳人に冷たく当たって悪いと思う。

でもすぐに冷静になれるほど俺は大人じゃない。


「跡部ぇ!」

「なんだよ。」

「おまえも悪いんだよ!宍戸に謝れバーカ!」

「ッ、知るかよ。」

「(もっと言うたれ岳人。跡部は言われなわからんタイプやし。)」


俺は知らない。

跡部は跡部なりに反省していることを、ただ素直になれないことを――





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