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act.12『最前の姿』
(宍戸視点)


学校の門が見えてきた頃、背中をポンポンと叩かれた。


「おっはよ、宍戸!」

「おう、岳人か。」

「なんだ?なんか疲れてる?」

「疲れてるに決まってんだろ!!てか聞けよ!」


そう岳人に訴えようとした時だ。

きゃあー!!という、女独特の黄色い声があがる。


「うるせー…相変わらずだぜ、跡部のヤツ。」


ピカピカに磨かれたリムジンが学校前に停車すると嫌みたらしく岳人が口を開く。

まさしくレッドカーペットでも敷かれそうな勢いだった。


「コイツら(ファンたち)もよく飽きねぇよな?……お?宍戸、跡部が侑士と一緒に車から降りてきた。」

「そりゃそうだろうよ。うちにいたんだからな。」

「は?なら宍戸も一緒に来ればよかったのに。」

「冗談じゃねーよ!」


なぜ俺がこんなにも機嫌が悪いか岳人にはわからないだろう。


「なんかあった?……って、また跡部が違う女連れてる!!」

「あれうちの犬、」

「へー?……ん?」

「だからうちの犬。」

「……リョウ?」

「首見ればわかるだろ?」


俺がそう言うと猛ダッシュする岳人。


「今日はえらい早いな、岳人?おはようさん。」

「はよ。それより侑士、まさか…」


岳人はリョウに接近して首元を見る。

そこには確かにシルバーチェーンの首輪が光っていた。


「……リョウ?」


恐る恐る口を開くが、リョウの反応は至ってふつう。

犬であれば尻尾をパタつかせているだろうが、今は人間。

ただニコニコしているだけだった。


「まさか一昨日のクッキー!?」

「当たりだ。なかなか美人だろ、あーん?」

「バカバカ跡部!なんてことしたんだよ!!」

「なっちまったもんは仕方ねぇだろ?」


横目でアイツらを見ると跡部に説得されている岳人が見えた。

俺は未だに怒りたっている。

そう簡単にリョウを受け入れられそうにない。


「それで宍戸機嫌悪かったのか〜…」

「まぁ、仕方ないやろな。」

「しっかし美人だなー?」

「犬んときから綺麗やったもんな。」


犬種は雑種だと思われるが、両親のどちらかがゴールデンレトリーバーなのだろう。

毛並みがゴールドに輝いていた。

しかし、耳が立っていたから片方は柴犬や日本犬なのか…?


「確かにこれを見ちまうと犬でいるのもったいない、って思っちまうよなぁ…」

『?』

「俺様が最高にいい女に手掛けてやるよ。」

「(いろんな意味でな。)」


人間としてのリョウを跡部が受け入れられたのが不思議でしょうがない。

理由も理解できない。


「ほな、行こうか?」

「行くって…クラスは?」

「跡部も宍戸もおるし、A(進学クラス)やろ。」

「なんだB(Aの次に進学クラス)じゃねぇんだ〜?」

「誰がおまえら(Bクラス)と一緒にするかよ。」

「悪かったな、頭悪くて!!」


ぎゃあぎゃあ廊下で騒ぐ声が聞こえる。

それがA教室に近づいてくるのがわかり、イヤな予感がした。


「お、おい、忍足…まさか。」

「そのまさかや。」

「リョウがAとかありえねぇだろ!読み書き出来ねぇんだから!」

「跡部がBやCに入れると思うか?自分の監視下に置くんがふつうやろ。」


忍足の言葉に絶句した。

リョウが一緒のクラスということは四六時中一緒だもんな。





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