act.10『それでもペット』
(宍戸視点)
バイトから帰ると狭い部屋の中の景色が変わっていた。
それだけではなく、愛犬の姿も変わりきっていた。
「マ、ジで…リョウなのか?」
変わらないのは俺への態度、忠誠心だけだった。
「なんでこんなんに…?」
「まぁ、あまり深く考えたらアカンよ。ペットなんは変わりないやろ?」
「ペット…だけど、」
励ましてくれる忍足の言葉もあまり頭に入らない。
抱きついてきたリョウを振り払い、後ずさりした。
理解できなくて頭がパンクしそうだった。
これは悪い夢だ、明日の朝に目を覚ませばすべてが夢なんだ、と言い聞かせた。
「俺、寝るわ……」
俺がベッドに入った後も忍足と跡部の会話が聞こえてきた。
「宍戸寝てもうたみたいやな。」
「なんで受け入れねぇんだ?」
「そらなぁ…(汗)」
「人間なら一緒にいて楽しいだろが。」
「宍戸は人間やなくても楽しいんちゃう?」
『……景吾さん、忍足さん、私も寝ます。』
「ああ、おやすみ。」
『おやすみなさい。』
静かにリョウは部屋に入ってきて、与えられたベッドに寝た。
それにびくびくしながら俺は狸寝入りした。
女と接したこと事態あまりないからだ。
「ほら〜…リョウも落ち込んでるやん?」
「宍戸が受け入れねぇからだ。」
「無茶言うたらアカンわ。」
そう、俺にしたら人間のリョウを受け入れるのはかなりキツい事実だった。
翌朝、部屋の中が徐々に明るくなると自然と目を覚ます。
「んー…ねっみぃ〜…」
いつものように背伸びをして身を起こした時、目が点になった。
「お、おい……」
目の前にはゴールドに輝く、長く綺麗な髪。
そして、昨日見た人間のリョウの寝顔。
「……リョウ!?」
『ん〜…』
モソッと動いたリョウを見て言葉を失った。
「うわぁぁぁぁぁぁあ!!」
その声を聞きつけてどこで寝ていたのか知らないが忍足が飛んできた。
「どないしたん!?」
「朝っぱらから何事だ!」
「なんで夢じゃねぇんだよ!なんで服着てねぇんだよ!!」
リョウはなぜか俺の隣で寝ていた。
それも裸で。
「あらまぁ……破廉恥やなぁ(笑)」
「見てないで助けろよ!!」
『んー…うるさい…』
「ぎゃぁぁあ!!」
ギュッと抱きついてこられ、頭ん中はパニック状態で悲鳴をあげる。
「頼むから服を着ろぉ!!」
「宍戸はホンマ、免疫ないんやなぁ?」
忍足が手助けしてくれたおかげで俺は助かった。
しかし、本当に参った。
このままでは精神的に疲れてしまう。
「リョウ、なんで服脱いだん?」
『だ…って、暑くて。』
「そらそうやわな。今まで着てへんかったんやから着慣れてへんもんな?」
慰めるようにリョウの頭を撫でる忍足に苛つきながらも黙っていた。
忍足は悪くない、と言い聞かせて。
「つか、跡部が悪い!そうだ、跡部が悪い!!」
「あん?そんなこと今更言われてもな。」
「どうしてくれんだよ!!俺のリョウを返せ!!」
「いいぜぇ?ご希望通りにな、おらよ。」
「うぎゃぁぁぁぁあ!!」
リョウを差し出され、俺は完全に拒絶反応を示す。
「女やから余計に慣れへんわな(笑)」
俺を見て他人事かのように笑ってる忍足がいた。
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