act.9『余計なこと』
(跡部視点)
予定をこなし、俺たちは宍戸のマンションに帰ってきた。
「なぁ、跡部。天蓋付きベッドなんてふつうプレゼントなんかせぇへんで?」
「いいじゃねぇか。お姫様みたいでよ?」
俺は買ってきた物を物珍しそうに眺めているリョウの隣に腰を下ろした。
『こんなにどうしてしてくれるんですか?宍戸、買い物から帰ってくるとよく言うんです。高い、って…』
「俺様にしちゃあ、こんくらい朝飯前だ。」
『でも…なんか悪いです。』
「気にすんな、全部善意の贈り物だ。」
「善意?下心あるんとちゃうん?」
腹を抱えながら笑う忍足に近くにあったティッシュ箱を投げつけた。
何か言いたげな忍足がまさしく口を開こうとしたときだ。
「ただいまー!!」
『!』
バイトから宍戸が帰ってきた。
そのときのリョウの反応は0.何秒の世界、俊敏さを越えた早さだった。
「なんだよこれ!?」
「まぁ、ふつうの反応やわな。」
「なんで天蓋付き!?しかもなんでこんなフリフリなんだよ!!……おまえか跡部ぇ!!」
天井と一体化している天蓋付きベッドを見て、怒りの矛先を俺に向ける。
なぜ怒る必要がある?
「あん?お姫様が寝るんだから、これくらいしてやらねぇとな。あん?」
「お姫様……?」
宍戸は俺の隣にいたリョウに視線を向けるや声を上げた。
「誰だよコイツ!!跡部、人んちに女連れ込むのやめろよ!!」
「まぁまぁ、落ち着きぃや宍戸。」
「落ち着けるかよ!!」
今の宍戸は獣のようだ。
怒っていたと思うと次の瞬間には顔を引きつかせていた。
「そいつは連れて帰れ!そしてこのベッドは撤去しろ!たく、」
「折角、人が親切で「迷惑だ!」
宍戸に突っ込まれ、仕方なく黙っていた。
宍戸の反応が楽しみだったからだ。
「そういやリョウがいねぇ。リョウ!?」
名前を呼ばれ、俺の隣から宍戸の元へ人間のリョウは駆け寄った。
「な、なんだコイツ……(汗)」
『おかえりなさい♪』
「ぎゃあ!!」
リョウにギュッと抱きつかれると宍戸が妙な声を上げた。
そして自分から無理矢理ひっぺがした。
「宍戸、落ち着き?」
「リョウはどこなんだよ!!リョウ、リョウ!?」
名前を呼ばれる度にリョウは宍戸に近寄る。
しかし、頭が悪い宍戸はそれと気づかず、後ずさりしている。
『なんで逃げるの?いつもならギュッてしてくれるのに……』
「はぁ!?」
肩を落とすリョウをまじまじ見る宍戸はその首元に気づく。
「首輪…?」
ローマ字でリョウの名前が掘られたシルバーのチェーン型の首輪。
犬のリョウはあの時点でかなり小さかったため、首輪も細く小さいものを使用していた。
それを人間になった今でも違和感なくつけていた。
いや、あえてつけたままにしていたんだがな。
「(頭から外れへんかったから“仕方なくつけたまま”の間違いやろ?)」
宍戸はようやく感づいたのか、口を魚のようにパクパクしていた。
そのときの抜け面には笑えたぜ。
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