act.7『人様の犬』
(跡部視点)
扉に近づき、忍足が隙間から覗いた。
「足キレーやなぁv」
「ふん、」
「…って、なんで裸なんや!?まさか宍戸のヤツ…って、んなわけあるか!」
「なに一人で漫才ごっこしてやがる。落ち着け、」
俺は忍足に突っ込みを入れ、すぐにその女の元へ行く。
「リョウ!」
『……ん、』
「起きやがれ!」
『………?』
「ちょ、跡部?リョウってまさか――」
『!』
リョウは俺たちに気づくとベッドから起きあがり、近くにいた俺に抱きついてきた。
「ッ、」
『ん〜♪』
すり寄ってきたリョウが裸なせいで隣にいる忍足の視線が痛い。
「イヤやわ自分、鼻の下伸ばして。」
「誰が伸ばしてんだ、ああん!?」
忍足はとりあえず、と言いながら自分のセーターをリョウに羽織らせた。
ブカブカのセーターを着たリョウはなんとも色っぽかった。
「あの脚、あの胸元、エロっぽいわ。」
「うるせ、黙ってろ!」
「しっかし、なんでそんな自分に懐いてんねや?」
「昨日クッキーあげたからだろ。」
「えらい単純やな(笑)」
「なんせ犬だからな。」
微妙に混乱してる忍足がうるせぇから、仕方なく説明してやることにした。
俺がたまたまうちの研究グループからある薬のサンプルを受け取ったこと、その薬が人間へと成長させられるものであること。
ホルモンバランスをどうだとか…その辺の説明はかったるいからあまり聞いてない。
それをたまたまリョウに使ったというわけだ。
「幸い美人顔だっしよ?」
「宍戸、怒らへんか?」
「さぁな。でも犬より人間の方が“一人”ではなくなるだろ?」
「ほんなら宍戸のため?」
「面白半分。」
「さよか(汗)」
リョウが人間になったことを宍戸が知るまで、まだ5時間弱ある。
それまでにリョウに必要な物を揃えてやろうと思った。
「薬の効き目は?」
「半永久的、」
「ホンマに?あらまぁ……俺知らんからな?」
半日で薬の効果が現れ始める。
そしてホルモンバランスを崩さなければ、ずっと人間でいられる。
「まず忍足、電気をつけろ。」
「はいはい、」
忍足に電気を点けさせるとリョウが俺の顔を見て目を丸くしている。
そして無言で近づいてくる。
「な、なんだよ…」
そして、ジッと俺の瞳を見ている。
「跡部の目、青いからびっくりしてんのとちゃう?」
「そ、かもな…」
『……綺麗。』
リョウの声を聞いて俺は驚いた。
透き通るような優しい音色を奏でる、まるでハープのような声だった。
『……初めて見た。』
「そりゃそうだろうよ。今までモノクロだったんだ。」
『?、……私の言葉、わかるの?』
「あぁ、」
どことなく嬉しそうな顔をするリョウが可愛かった。
「……リョウ。」
『はい、』
「俺の名前は跡部景吾だ。覚えとけ。」
『はい。景吾さん、改めてよろしくお願いします。』
頭を下げたリョウを見て、俺の中のなにかのスイッチが入った。
「えらいなぁ、お利口さんやん。」
『あ、ありがとうございます。』
唯一、歯止めとなる理由はリョウは宍戸のペットだ――ということ。
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