act.80『善は急げ』
(仁王視点)
宍戸から電話がかかってきた。
珍しいな、と呟いて俺は電話に応じた。
「どうしたん?」
「…なぁ、仁王。俺はどうすればいい?」
相談の言葉から始まり、宍戸の気持ちや悩み、跡部やこもものことを聞かされた。
先に跡部から電話がきて、考えたらしい。
だが、宍戸の結論は一年前と何ら変わりなかった。
「もっと早く気づけばこももは傷つかなかったし、跡部にも強い打撃を与えずにすんだ。だから俺には……」
躊躇しているのか、または自分に諦めるように促しているように聞こえた。
宍戸には一撃を与えなくてはいけないと感じた俺はため息を吐いてから伝えた。
「人を愛するのに資格なんているん?」
俺の言葉に宍戸は黙り込んだ。
もし、資格がいるんなら俺は資格なんかないから違法なんと違うか?
そう付け加えた後、宍戸の返事はわりと明るかった。
電話を切った後、俺は腰を上げて立ち上がった。
「さーて。見に行きますか。最高の物語(ラブストーリー)を、」
恐らく宍戸は車で東京へ向かい走っているだろう。
それに追いつけるように俺は気合いを入れて愛車のアクセルを踏み込んで家を出た。
「こもも!」
「あれ?雅治〜わざわざ迎えに来てくれたの?」
「いんや、そうじゃなか。ところで、宍戸はまだか?」
「……なんの話?」
こももたち三人は跡部の自室でお茶を飲んでいたらしい。
手には高そうな紅茶カップがあった。
ちょうどそのときだ。
遠くからものすごい車のエンジン音が聞こえた。
「(宍戸か?)」
俺は一人、カーテンの隙間から外を見て確認した。
「俺ん方が早かったな。」
「雅治、また飛ばしてきたんでしょ?」
夜は車が少ないため、ある程度のスピードで走れる。
しかし、こももに言わせればそれが宍戸より早い理由にはならないらしい。
「リョウ…」
車が玄関前に止まったとわかると跡部は紅茶カップを机に静かに置いた。
それに気づいたこももは跡部の横に歩み寄った。
「リョウー!!」
『……宍戸?』
宍戸の声に気づいたリョウは窓を開けてテラスに出た。
『し、しし…ど?』
宍戸の服装は職場での作業服だった。
しかし、そんなものは関係ないだろう。
「俺、……やっぱり無理だ。」
『……………』
「リョウ(ペット)がいない生活なんて…もう、独りは嫌だ。…寂しいんだ、」
そうテラスにいるリョウに言う宍戸にヤジが飛んだ。
「素直に言いなさい、宍戸くん?それじゃあ、ペットの身代わりでもよかったんじゃないの?」
そうこももに皮肉を言われ、宍戸は体の横で拳に力を入れた。
「俺…俺は今でもリョウが好きだ!」
そう言った宍戸の言葉にリョウはすぐに走り出した。
テラスから跡部の自室を通り、長い廊下を走り抜け、ふつうより多い段数の階段をかけ下り、玄関のドアを開けた。
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