act.79『しかし、立ち向かえ』
(跡部視点)
その日の夕方、リョウが俺の家を去ってから一年ぶりに姿を現した。
その面は涙で濡れるに濡れていた。
「あれ、リョウちゃん!?」
それをたまたま庭にいたこももが見つけたと言う。
「やだぁ!久しぶり!どうした…の?」
リョウの表情に明るく声をかけることが出来ず、尻すぼみになるこもも。
俺は庭にいたこももに用事があって彼女のところに来た。
久々に見る姿に胸が痛んだ。
「リョウ、」
「あ、景ちゃん。」
「どうしたんだよ?ついに宍戸が見つかったか?」
軽々しく言ったのが拍車をかけたらしく、リョウは泣き崩れてしまった。
それを見たこももがもぉ!と呆れて言う。
俺の感情だってくみ取りやがれバカ。
『…追い払われ、ちゃった…の、』
途切れ途切れに言うリョウの言葉を聞いた俺はすぐにこもものズボンのポケットにある携帯を引っこ抜いた。
「ちょ!景ちゃん!!」
奪い返そうとするこももを片手で押さえ込み、アドレス帳から宍戸の名を探す。
そして電話をかけた。
「おぉ、どうした?」
「宍戸か?」
「あ、跡部?これ、こももの番号だよな?」
テンパってる宍戸に事を正し、説明している余裕は俺にはなかった。
「宍戸、テメェなにリョウを泣かしてやがんだ?」
「は?なんの話?」
「リョウのヤツ、泣いて帰ってきやがったんだぜ?」
必死に訴える俺とは違い、宍戸は冷静に言う。
「……もう俺には関係ない。」
その言葉に俺は怒りを宍戸にぶつけた。
隣でこももが落ち着いて!となだめている声なんか耳に入らなかった。
「リョウがどんな思いでこの一年、おまえを探したと思ってんだ!その姿を見て俺やこももがどれだけ辛い思いをしたかおまえはわかってんのか!」
言い終えてすぐ、電話の受話器からプープーと終話音が聞こえた。
切られたらしい。
「景ちゃん…」
「……悪い、つい。」
「宍戸くんはガツンと言わないとわからない人だから良いんじゃない?」
俺を励ましてくれるこももに携帯を返した腕は力なく垂れ下がっていた。
リョウは俺の訴えや気持ちを理解してくれて喜んで言った。
『景吾さんの気持ち、嬉しかった!』
涙でぐちゃぐちゃでも、その笑顔は最高にきれいだった。
「(景ちゃん、)」
切なげな顔をしているであろう俺を気遣い、こももはさりげなく手を握ってくれた。
『私、幸せだよ!こんな良い人たちに囲まれてて。』
「リョウちゃん…」
『やることはやった。だから良いの、』
リョウは満足したような様子だったが俺は納得できずにいた。
それはこももも同じだったらしい。
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