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act.77『諦めない』
(こもも視点)


高校2年の冬、リョウちゃんと宍戸くんは出会い、高校3年の3月に別れた。

宍戸くんが車のディーラーに就職して1年が経った。

雅治とこももは時たま電話したり、会いに行ったりしていたその一方、リョウちゃんは諦めずに宍戸くんを探していた。


「リョウの話はしないでくれ、」


そう言っていた宍戸くんにはリョウちゃんについてなにも言わないでいた。


「リョウに会うことはもうない。」


諦めている宍戸くんとは逆にリョウちゃんは違った。

話を聞けば少しずつ、宍戸くんの職場に近づいていた。

東京都内のディーラーはすべて尋ねたと言う。


『すいません、こちらに宍戸さんと言う方はいらっしゃいますか?』

「申し訳ございませんがうちにはおりません、」


一日に何キロ歩いたのだろう?

始めは靴擦れが出来て歩けないまでになったと聞いた。

景ちゃんの指示で跡部邸にいる使用人がリョウちゃんに一枚のカードを渡した、というけど明細書を見ても大した金額ではない。

どうやって生活しているのだろう?なんて疑問に思っていたときだ。


『置いてあったの。私宛の手紙が…宍戸の部屋に。』

「へ〜?なんて?」

『100万くらい貯まってる通帳と一緒にあって、幸せになれよって…』

「バカだね、宍戸くん。」

『…バカなのは私だよ。』


宍戸くんは遺産を分けてリョウちゃんに渡したらしく、それで生活していると聞いた。

転々と住む場所を変えているようだ。


『また電話するね?』

「うん、ありがとう。」


電話を切ってこももは景ちゃんを見た。

ただ、なんとなく過ごしている彼を隣で支えるのが今のこももの仕事。


「なぁ、こもも。俺は間違ってたか?結局、リョウに苦労させることになったし…」


景ちゃんはこの一年、ずっと後悔の念にかられているようで元気がない。


「景ちゃん、みんな間違いは犯すの。だから成長して行くんだよ?」


そう励まし続けた。

そしてようやく、彼の気持ちが報われるときが来た。










リョウちゃんが神奈川県で店を回っていた時の話。


『すいません、こちらに宍戸さんと言う方はいらっしゃいますか?』

「あ、はい。いますが?」

『私は宍戸亮という名の者を探していまして…』

「宍戸のお知り合いですか?」

『家族です。あの、今お会い出来ないでしょうか?』

「お名前伺ってもよろしいでしょうか?」

『……宍戸リョウと言います。』

「かけてお待ちください。」

『あ、あの…出来れば彼に名前は伝えないでください。』


リョウちゃんの気持ちを思うと胸が熱くなる。

探し続けた彼を見つけられたときの気持ちはずっと連絡を取っていたこももにはわからないことだった。


『(見つけた…やっと、)』


緊張から手に汗を浮かべていただろう。

この一年、彼女が泣き言一つ言わずに宍戸くんを探したことを知っている。

彼を見つけた今、なにを思っただろう?


「あちらのお客様です。」

「わかった。」


カウンターにいた人が宍戸くんにリョウちゃんの方に手を差し出した。

彼が見たのはリョウちゃんの後ろ姿ですぐに気づかなかったらしい。





あきゅろす。
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