act.76『大失恋』
(リョウ視点)
背中合わせに始まる恋もあると思う。
“こもももいる”
もしかすると私のせいで二人はお互いの思いが通わせられなかったのかもしれない。
だとしても、私を愛してくれてた景吾さんがいたのは本当だと思う。
私も彼を愛していたこと気持ちに嘘はない。
「景ちゃん、リョウちゃんとの話は終わったの?」
「あぁ、」
慰めるように言うこももの声が今の部屋から聞こえて私は足を止めた。
景吾さんにはこももがいる。
愛していた人が自分じゃない人といる様子はたった今別れたばかりの私としては虚しく感じた。
『(後戻りが出来ないっていうのはまさにこのこと…?)』
ドアの隙間から見えた限りではこももが抱き寄せられている。
その姿は嬉しそうでもあり、幸せそうにも見えた。
「心身共に慰めてあげるよ?」
「…可愛いこと言ってんじゃねぇよ、バーカ。」
クシャクシャと撫で回され、乱れた髪を彼女はもー!と不満そうに言い、頬を膨らましながら整えていた。
「(リョウちゃん……)」
景吾さんに腕を絡めていたこももと一瞬視線があったような気がした。
でも、こんな隙間からわかるはずがない、と高をくくっていた。
「ねぇ、景ちゃん?こもものこと好き?」
「あぁ、」
「それじゃあ、両思いだね?」
「……………」
「愛してる、」
そう彼の返答に少し期待しながら青い瞳を見つめていた。
彼から言葉での返答はなかったけど、代わりに唇を重ねていた。
「……ベッド行かない?」
「そうだな、」
そう返事が聞こえてすぐ、この隙間からベッドへ連れられて行くこももの姿は見えなくなった。
一人たたずむ私は自分に尋ねた。
『(居場所がなくなったこと、すごく後悔してる?)』
答えは決まっていた。
『(寂しくは思うけど、後悔はしてない。私は宍戸が好きだから――)』
自分の気持ちがわかったのは景吾さんとこもものおかげだと思った。
『ありがとう。こもも、景吾さん。』
決心したなら揺るがないうちに、と行動を早めた。
私は宍戸を追いかけて走った。
「リョウちゃん、行ったみたい……」
「そ、…か。」
「……大丈夫、じゃないよね?」
「あれほど愛せた女はいない。きっとこれからも……」
私は知らない。
「景ちゃん……我慢しなくて良いよ?」
こももが気を遣って誤魔化しながら言ったセリフ――ベッド行く?――をまともにとらえてしまったバカな私にはわからない。
「クッ、ソォ…!」
景吾さんが悔しくて、ベッドの縁に座るこももに抱きしめられながら泣いているなんて。
その涙をこももにさえ見せないよう涙を手で拭っていたことなんか――
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