act.74『彼を求めて』
(こもも視点)
なんとなくリョウちゃんが心配で窓の外を見ていた。
宍戸くんにちゃんと会えたかな?とか、リョウちゃんに会って、宍戸くんの気は変わるかな?と、考えてた。
すると遠くの方にリョウちゃんの姿が見えた。
跡部邸の門をくぐってこちらに歩いてくるのを見て、こももは景ちゃんを見た。
彼は机に突っ伏してるため、今はそっとしておこうと思い、静かに部屋を出て外に向かった。
「リョウちゃん、会えた?」
『…会えたけど、置いていかれた。』
「そっか、」
かける言葉が見あたらなくてしばらくの沈黙が続いた。
しばらくするとこももより先にリョウちゃんが口を開いた。
『こももは宍戸がどこに行ったか知らないの?』
知らない、と言えば嘘になる。
こももはリョウちゃんの気持ちを長い目で見て試すことにした。
「働き口は関東にある車のディーラーとしか聞いてない。携帯は連絡つかないの?」
『携帯の番号が違うって言われた。』
宍戸くんは電話番号を昨日の時点で変えたらしく、新しい連絡先はメールで報告された。
しかし、どうやらリョウちゃんに教えなかったらしい。
それで本当にリョウちゃんを手放したんだ、と理解した。
『どうしよう?どうすればいい?』
面と向き合って相談してきた彼女は初めてだった。
「好きなんでしょ?」
『え?』
「宍戸くんを追いかけながら答えは出なかったの?」
景ちゃんの気持ちを裏切ったことになるし、今になって宍戸が好き、なんて口が裂けても言えないだろう。
だけど、重要な問題だから目をそらしてほしくはなかった。
「たぶん、リョウちゃんは宍戸くんに受け入れてもらえなかったから景ちゃんを好きだ、と錯覚したんじゃない?」
『そんなこと…私は景吾さんを愛してる!』
優柔不断なリョウちゃんにははっきり言わなければわからないと思った。
真剣だということを理解してほしくてキツく睨んで怒ったかのように振る舞った。
「しっかりしなよ!リョウちゃんがそんな態度(二股)でいるからみんなが苦しむってこと、早く気づきなさい!」
『………』
「宍戸くんが好きなこと、きっと景ちゃんも認めてくれるはずだよ!!」
景ちゃんや宍戸くんの心情を知る故か、二人を思うと口を閉ざしていられなかった。
こももの訴えを聞いたリョウちゃんは黙り込んだ。
そして、少し考えてからこももに言った。
『会いたい、…宍戸に会いたい。』
正しい決定を下せたようで安心した。
景ちゃんを見捨てられない、と言ったらどうしようかと思った。
「愛に生きなよ、リョウちゃん。」
今のリョウちゃんを宍戸くんは愛することが出来たのだから、愛されて幸せになりなさい。
そうこももは付け加えた。
『景吾さんに気持ちをきちんと伝えてから宍戸のところに行く。』
「うん、」
考えをまとめるから一人にしてほしい、と言ったリョウちゃんを一人残し、こももは景ちゃんの元へ向かった。
窓からこももたちを見ていた、と言う景ちゃんはこれから自分が受ける告白に脅えていたのだろうか?
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