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act.73『捨て犬』
(宍戸視点)


個人的な都合で卒業式の最中に抜けた俺はリョウを拾った踏切に来ていた。

仁王が飼わないか?なんて言い出したのが始まりだったな、とふと呟いて笑った。


「花添えてあるし。仁王かな?」


近くに添えてある花を見て、当時を振り返り、懐かしく思って目を細めた。


「こもも、ありがとうな。でも俺には今更、リョウを愛する資格はないんだ。」


跡部からの宣戦に応じず、リョウに冷たく当たっていたのに今更、大事だなんて都合がよすぎる。

さらに自分勝手な故にこももを傷つけ、跡部の気持ちを無駄にした。


「最低だよな、俺。」


リョウに使っていたリードを花の横に置いて俺は立ち上がった。

そして、踏切を渡ったとき、遮断機が降りた。

頭に響く警報が鳴る中、違う音が耳に届いた。


『宍戸ー!!』


それがリョウの声だとすぐにわかり、足を止めた。


『どこに行くの!?私を置いてどこにいくの!?』


見れば辛さが増すことなんか重々承知だったが、振り返ってリョウを見た。

なにかを伝えたい。

でも言葉にならなかった。


“ずっと飼い主だよね?”


あのときの約束は果たせそうにない。

ごめん、と弱々しく発した言葉は遮断機の音で消えてしまった。


『宍戸ー!!』

「じゃあな、リョウ。」


別れの言葉がリョウの耳に届いたかわからない。

電車が来るとお互いの姿は見えなくなった。


「ここで出会い、別れるんだな。」


そう呟いて俺は走った。

二度とリョウに会うことはない、そう苦しみながら。




















『宍戸ぉー!!』




















リョウが俺を呼んでいた気がした。




















「お疲れさまっしたー!」

「お、亮。良いところに来た。」

「なんスか?」

「おまえさ?車とか好きだって言ってただろ?」

「はい、」

「俺の学生時代の友人に車のディーラーで働いてるヤツがいんだよな?」

「へー?」

「それでよ?大学行く気はないって言ってたし、そいつんとこで働くのはどうだ?」

「え?」

「人手が足りてない、って話だし。そいつの下でよければ働かねぇかな〜とか思ってよ?腕が良ければ月20万出すってよ?」

「でも、スタンドは…」

「うちは大丈夫だ!雅治くんがいるし?」

「アイツ、どう考えてもスタンド向きじゃないっスよ?」

「まぁ、なんとかなるって。由紀恵の知り合いが働き口探してるって言う話も聞いたし。」


スタンドの所長(由紀恵さんの夫)から勧められた進路。

仁王や佳梨にぃに相談して、結論を出した。


「そのディーラーが神奈川なんだよな?」

「別に良いです。」

「社宅に入れるみたいだし、まぁまぁの条件だろ?」

「はい!ありがとうございます!」

「うちでの亮の働きがよかったからその友人に言っといたぜ?亮を貸すからには高くつくぞ!ってな(笑)」


リョウと離れる結果でも俺はその道を選んだ。

全てにおいて、良い方向に物事が進むと思ったからだ。





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